冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 レジデンスに着いてからも動揺が抑えきれず、部屋の電気もつけずにソファに座った。

 すると、SNSの着信が鳴る。


【予定は変わっていないけど、どうした】


 椿さんからの返信だ。飛び込んできた文字に目を疑う。

 出張の予定が変更になっていないって、どういう意味?


【今、どこにいるの?】


 素早く返信をすると、すぐに既読がついた。


【パリ】


 思わず電話をかける。モヤモヤが募って、居ても立っても居られない。


『なんだ? まだ電話の時間じゃないのに、藍からかけてくるなんて珍しいな』

「今、どこにいるの」


 三コールもしないうちに出た椿さんの発言を無視して問い詰める。

 思ったよりも低い声が出てしまったらしい。様子が違うと察した彼は、戸惑って数秒沈黙した後に答えた。


『さっき送っただろ? パリだよ』

「パリ? フランスのパリ?」

『ああ。出張の予定は変わってないんだから、当然だ。藍も知っているよな?』


< 137 / 202 >

この作品をシェア

pagetop