冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
レジデンスに着いてからも動揺が抑えきれず、部屋の電気もつけずにソファに座った。
すると、SNSの着信が鳴る。
【予定は変わっていないけど、どうした】
椿さんからの返信だ。飛び込んできた文字に目を疑う。
出張の予定が変更になっていないって、どういう意味?
【今、どこにいるの?】
素早く返信をすると、すぐに既読がついた。
【パリ】
思わず電話をかける。モヤモヤが募って、居ても立っても居られない。
『なんだ? まだ電話の時間じゃないのに、藍からかけてくるなんて珍しいな』
「今、どこにいるの」
三コールもしないうちに出た椿さんの発言を無視して問い詰める。
思ったよりも低い声が出てしまったらしい。様子が違うと察した彼は、戸惑って数秒沈黙した後に答えた。
『さっき送っただろ? パリだよ』
「パリ? フランスのパリ?」
『ああ。出張の予定は変わってないんだから、当然だ。藍も知っているよな?』