冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 重く張り詰めた空気が電話越しに流れた。

 沈黙を破ったのは、椿さんだ。


『そうだな』


 言葉の続きを聞くのが怖くて、通話を切る。

 真実を告げたはずなのに、胸が張り裂けそうに痛い。はっきりとニセモノだと断言されて、無意識のうちに涙が溢れた。

 どうして椿さんが怒るのよ。最初に裏切ったのはそっちなのに。

 いや、裏切りという呼び方は相応しくないのかもしれない。だって、もともと一途に想い合っているわけじゃないんだから。

 パリにいると嘘をついて瑠璃川さんと会っていても、このまま帰らずに泊まったとしても、責めるのはお門違いだ。

 わかっているのに、一方的にイライラをぶつけたのは私である。

 おこがましい嫉妬だと気づいた頃には、とっくに恋に落ちている。

 二度と恋愛はしないと決めたのに、いつのまにか椿さんが私の特別になっていた。

 出会った頃から、ずっと彼は私の心の中にいて、知れば知るほど彼に惹かれていたのだ。

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