冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 芯があって仕事に誠実で、一見クールな椿さんが、実は寂しがりやで素直な可愛らしい一面があると知った。捻くれていると自虐していた性格も、どんどん愛おしく感じてしまう。

 自信家だけど周囲に優しくて、人一倍自分に厳しい。ストイックな彼に憧れている。

 それでも、一番近くにいる彼の心は手に入らない。

 ソファのクッションに顔をうずめて、声を殺して泣いた。いつのまにか疲れて眠ったようで、気づいたら朝日がのぼっている。ちょうど休暇を取って仕事がないのが幸いだった。

 九月二十日。どうして休みを取ったんだっけ。もう考える気力もない。

 結局、一晩椿さんは帰って来なかった。あのまま瑠璃川さんとどこかに泊まったのかな。

 “気まぐれに手は出さない”と掟を決めているからか、私を一切女と見ないのに、瑠璃川さんは違うのね。もしかして付き合っていたのかしら。

 どんどん嫌な妄想が膨らんで、そんな自分に嫌気がさした。

 それから、どのくらい時間が経ったのだろう。シャワーを浴びて自室に戻った頃、気づけばすっかり夕方になっている。

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