冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 綺麗に梱包されていたのは、深紅の薔薇の花束だ。本数は七本で、見れば見るほど美しい。

 男性から花束なんて貰ったの、はじめて。とても綺麗。

 添えられていたメッセージカードに並んでいるのは、綺麗でバランスの良い手書きの文字である。


【Happy Birthday】


 誕生日おめでとうの英文に息が止まった。九月二十日は、私の誕生日だ。歳を重ねるごとに待ち侘びることがなくなり、強く意識せずにいた。

 そもそも、椿さんがわざわざ誕生日を覚えていてくれていたのが驚きだ。


『長い時間は取れそうにないけど、九月二十日の夜はちゃんと時間を作る』


 出張に行く前に、たしか彼はそう言っていた。休みの日に合わせてくれたのではなくて、誕生日だったから?

 伝票の日付は八日前だ。住所はパリで、出張先のスイーツを買い集めて、事前に送ってくれたのだと察する。

 コンテストに出るためにお菓子を研究してるって知ったから? それとも単にスイーツ好きな私のために?

 どちらにせよ、とても嬉しい。多忙な中、こっそりサプライズプレゼントを用意してくれたんだわ。

 ちゃんと彼の話を聞く前に、怒りだけをぶつけてこじれてしまった。彼は、こんなにも私を想ってくれていたのに。

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