冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
無意識にスマートフォンを開いて、電話をかけていた。
一向に繋がらない。仕事中なのか、もしくはまだ怒っているのかな。当たり前よね、一方的に嫉妬をして、あれだけ失礼なことを言ったんだもの。
どうしよう。連絡が繋がらないのなら、今椿さんがどこにいるのかもわからない。
するとそのとき、着信が入った。椿さんの折り返しかと思ったが、画面に表示されているのは予想をしていなかった名前である。
「も、もしもし。久我 藍です」
おずおずと通話ボタンを押したとき、電話越しに椿さんに良く似た低く甘い声が聞こえた。
『突然すまない。久我 樹です。休暇中に悪いんですが、今時間をもらっても良いですか』
声の主は、椿さんの従兄弟で、職場であるランコントルホテルの総支配人の樹さんだ。親族になったときに番号を交換していたものの、電話をするのは初めてで、緊張する。
「はい。緊急の仕事でしょうか?」
『まあ、緊急と言えばそうですね。君の夫が昨夜から家に転がり込んで来て、とても面倒くさい。回収しに来てくれませんか』