冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 電話の内容に理解が追いつかないまま指示通りに迎えに行く意思を伝えると、ランコントルホテルで待ち合わせる流れとなった。

 樹さんの退勤のタイミングに合わせて、ロータリーで合流する。車で家まで案内をしてくれるらしい。

 仕事モードから身内モードに切り替えた樹さんは、ラフに話しかけてきた。


「突然連絡をして驚いただろう? わざわざ来てもらって悪いな」

「とんでもないです。あの、状況が読めないんですが、一体どういう流れで椿さんが樹さんの家に?」

「あいつが、昨日の夜、暗い顔をしていきなり家に来たんだ。『理由は聞かずに泊めてくれ』って言うなりソファにダイブして、クッション抱いて離れない」


 クールで余裕たっぷりないつもの姿からは想像できない一面だ。

 樹さんは、横目で私を眺めて続けた。


「まるで飼い主に捨てられたペットみたいな傷心ぶりだよ。わざわざ俺の家に来るってことは、それほど参ってるんだろうと思ってな。詳しい話は口にしないけど、悪さをして藍さんに叱られたんだろ?」

「いえ、私が悪いんです。つい、ひどい言葉を浴びせてしまって……」


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