冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
そのとき、樹さんが小さく笑う。
「あいつ、頑固で素直じゃないから、大事なところで藍さんに誤解を与えるんだ」
「誤解ですか?」
「ああ。もともと、椿に『九月二十日には帰国をしたい』って頼まれていてさ。うまく調整がついたから、帰国の予定を藍さんの誕生日の前日に合わせてやったんだよ」
私の知らないところでそんなやりとりをしていたとは想像もしていなかった。初耳の話題に食いつく。
そういえば、電話で二十日について何かを言いかけてやめた日があった。もしかして、早く帰れると伝えようとしたのかな。
「なのに椿ときたら、日本に着いてから急に『やっぱり、サプライズで帰っても藍は喜ばないかもしれない。友人との予定が入っているかもしれないし』と言いだしたんだ」
そんなことない。椿さんが私を思ってしてくれた行動に、喜ばないはずがないわ。
パリにいると嘘をついたのは、サプライズを仕掛けるためだったのかしら。