冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 綺麗で明るくて、素直な女性という印象を受けた。椿さんとも交流があり、親しくしているようだ。


「あなたも新婚でしょう? 出て行くって、ちゃんと帰るつもりよね?」

「ふらっと姿を消しはしないよ」

「またはぐらかして……でも、四年前まで『愛? そーいうの、よく分かんないんだよね』って言っていた椿が、人間らしくなって嬉しいわ。それだけ悩むくらい、藍さんが大切なんでしょう?」


 樹さんをはじめ、美香さんや榛名さん、瑠璃川さんなど、彼を知る人物が口を揃えて『あの椿』というほど、過去の彼は他人に心を開かない、仮面の人だったんだろう。

 リビングの扉に手を伸ばしたとき、椿さんの声が耳に届く。


「大切だよ。愛し方を知らないのに、藍が大事すぎて、どうしていいかわからない」


 ドアノブにかけた指が止まった。


「それでも、愛さずにはいられない。愛し合っている夫婦じゃないと断言されて現実を突きつけられても、藍が俺をなんとも思っていなくても、どうしても振り向かせたくなるんだ」

< 148 / 202 >

この作品をシェア

pagetop