冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
衝撃が大きすぎて、何も考えられない。
今のは、本当に椿さんの言葉なの? いつも本音をはぐらかしてきた彼が、私のいないところで話す内容は、嘘ではないのだろう。
それでも、とても信じられない。
そのとき、私の代わりに樹さんがリビングの扉を開けた。椿さんと美香さんの視線がこちらに向いて、目が合った途端、椿さんの切れ長の瞳が動揺で見開かれる。
「藍……」
名前を無意識に口にした彼は、すぐに樹さんへ標的を変えた。
「おい、樹。ここに連れてくるなんて聞いていないぞ」
「言っていないからな。四年前の仕返しだ。逆に感謝をして欲しいくらいだよ。さっさと帰ってよく話せ。お前の相手をするのは俺たちじゃない」
部屋の中に入った樹さんが、椿さんの腕を掴んでソファから引っ張り上げた。
状況を理解したらしい椿さんは、小さく呼吸をしてこちらへ向かって歩きだす。
「美香、世話になった。押しかけて悪かった」
「えっ。ああ、気にしないで」
素直な言葉に驚いた様子の彼女が返事をすると、椿さんは私の目の前で立ち止まる。