冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 衝撃が大きすぎて、何も考えられない。

 今のは、本当に椿さんの言葉なの? いつも本音をはぐらかしてきた彼が、私のいないところで話す内容は、嘘ではないのだろう。

 それでも、とても信じられない。

 そのとき、私の代わりに樹さんがリビングの扉を開けた。椿さんと美香さんの視線がこちらに向いて、目が合った途端、椿さんの切れ長の瞳が動揺で見開かれる。


「藍……」


 名前を無意識に口にした彼は、すぐに樹さんへ標的を変えた。


「おい、樹。ここに連れてくるなんて聞いていないぞ」

「言っていないからな。四年前の仕返しだ。逆に感謝をして欲しいくらいだよ。さっさと帰ってよく話せ。お前の相手をするのは俺たちじゃない」


 部屋の中に入った樹さんが、椿さんの腕を掴んでソファから引っ張り上げた。

 状況を理解したらしい椿さんは、小さく呼吸をしてこちらへ向かって歩きだす。


「美香、世話になった。押しかけて悪かった」

「えっ。ああ、気にしないで」


 素直な言葉に驚いた様子の彼女が返事をすると、椿さんは私の目の前で立ち止まる。

< 149 / 202 >

この作品をシェア

pagetop