冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
お互い見つめ合って数秒沈黙した後、手を差し出した。
「帰ろう、椿さん」
少し震える手に気づいたのか、彼は素直に手を握ってくれた。
それから樹さん夫婦と別れ、駐車場に停めてあった椿さんの車に乗り込んだ。ドアが閉まっても、椿さんはエンジンをかけない。
「ごめん。散々な誕生日にさせた」
頭を下げた彼に目を見開く私に、低く続ける。
「嘘をついたことも、瑠璃川と会ったことも、全部俺が悪かった。愛し合っている夫婦じゃないって言われて、勝手に傷ついて、嫌な思いをさせた」
「待って、悪いのは私の方なの。無神経な言葉を口にして、本当にごめんなさい。わざわざ仕事を早めて帰国してくれたんでしょう? プレゼントもありがとう」
そのとき、彼は過去の自分がパリから送ったプレゼントの存在を思い出したようだ。
照れ隠しで視線を逸らして、背もたれに体を預けている。
「何をあげたら喜ぶか、わからなかったんだ。俺は、藍がスイーツ好きなことしか知らないし、コンテストのレシピの参考になればいいと思って」
「とても嬉しかったよ。薔薇も綺麗で、すぐ玄関に飾っちゃった。コップで代用しているけど、花瓶も買いに行くね」