冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
開演までの待ち時間に、名刺に記載されていたEAMを調べると、エグゼクティブ・アシスタント・マネージャーだと分かった。ホテル運営の総支配人を支える補佐役で、営業の責任者が兼任する場合もあるようだ。
同い年くらいに見えたけれど、肩書きがとんでもない。とても優秀な人だったのかな。ホテルの副総支配人って、もっと経験のある年配者のイメージだ。
もしかして、見た目よりも歳上だったとか?
帰りの飛行機に乗ってからも、なぜか彼が頭から離れない。
異国の地で出会ったアンジュのファンは、パティシエの道を再び進む勇気をくれた。
それだけではなく、容姿を含めて自分に自信が持てなくなっていた私を、スマートな言動で変えてくれたんだ。
帰国後、私は実家を出て以降、初めて両親に会いに行った。
それは、企業を継ぐという意思表示のためではない。学生時代にお世話になった留学先のパリで、パティシエとしての腕を磨く修行に出る決意を伝えるためである。
快く引き受けてくれた恩師の元へ旅立って二年、死に物狂いで技術を盗み、仕事に身を捧げた。
原動力になったのは、忘れもしない宇一さんへの怒りや悲しみが主だったが、根底で支えてくれたのは、他でもないバイクの彼の存在だった。