冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 政略結婚をして、椿さんがラスベガスの経営を任されると聞いたとき、愛し合っていない私たちはそれぞれ別居をする想定をしていた。

 現地へ行く椿さんと離れて、ひとり暮らしに戻るだけだと思っていたけれど、広い部屋にひとり残される寂しさを知って、憂鬱になっている。

 彼は「無理について来なくてもいい。藍には藍のやりたい仕事があるだろうから」と言ってくれた。

 正直なところ、彼に着いてラスベガスへ行く決心はまだついていない。それでも、好きな人と一緒にいたい感情が大きくなるにつれて、将来への迷いが生まれている。

 結局、はっきりした答えは出せないまま、時間は過ぎた。

 相変わらず寝室は別だけど、昨夜は寝る前にキスをされた。あの後顔を合わせるのは初めてなので、どうも緊張してしまう。


「今日は、例のイベントの打ち合わせがあるんだよな?」

「ええ。出先からそのまま直帰する予定よ」


 例のイベントとは、都心に建つ老舗百貨店の催事場で開催される、有名店のスイーツやグルメを集めたイベントだ。

 我がランコントルブランドも出店が決まり、ペストリーシェフが気合を入れて新作を作っている。

 催事場に立つのはカフェの従業員だが、パティシエも担当者が決まっており、今回、私は補佐役としてメンバーに入っていた。

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