冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 イベントが始まるのは明日からニ週間。打ち合わせは百貨店で行われ、商品の搬入や保存、店舗の位置や装飾などを確認する予定だ。

 なんとかコンテストに向けたお菓子も形になってきたし、仕事にも打ち込める今がとても充実している。

 朝食を終えて、出勤の準備も整えた後、先に家を出る私を椿さんが玄関まで見送りに来た。


「今日も一日頑張れよ」

「うん。椿さんもね」


 返事をしたそのとき、目の前に立っていた彼の片手が私の後頭部にまわり、スマートに抱き寄せられる。

 前髪にキスを落とされて目を見開くと、頭ひとつ分高い位置で端正な顔が微笑みをたたえた。


「い……いまのは?」

「いつもと同じだと、昨日の出来事を夢だと思われそうだからな」


 「いってらっしゃい」と告げ、くるりと背を向けて手を振る背中がリビングの扉の奥に消えた後、やっと一連のやりとりの意味を理解して、全身の体温が急上昇する。

 夢じゃない。私と椿さんは、仮面夫婦から正真正銘の恋人になったんだ。好きな人が自分を愛してくれるって、こんなに嬉しいのね。

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