冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 女性店員が、柱にアンジュのポスターを貼っている。新商品と銘打って催事場限定のスイーツを販売するようだ。


「チョコレート……ケーキ?」


 ポスターの写真を見た瞬間、目を疑う。アンジュが用意している洋菓子にはひどく見覚えがある。

 円柱状のケーキは、丸いチョコレート板が蓋のように乗っていて、蜜漬けした輪切りのオレンジが飾られている。

 金箔のパウダーがかかっており、贅沢で豪華な印象だ。柑橘系のソースと混ぜたカラフルなケーキスポンジが層になっていて目を引く。


「これ、久我さんがコンテスト用に準備していたケーキにそっくりじゃないか?」


 一緒に来ていた同僚が、ぽつりと本音をこぼす。

 他人から見ても明らかに酷似していると実感して、強い衝撃が体に走った。

 嘘、どうして。私が考案したレシピと瓜二つのケーキが目の前にある。

 ポスターに書かれた味の詳細から口溶けの説明まで全く同じだ。偶然でここまで揃うなんて、現実であり得るのだろうか?

 職場の人が、アンジュと繋がっていると考えるのは不自然だ。宇一さんと講習会で会ったとき、私はまだレシピを作る前だった。

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