冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 私は二度と恋をしない。大切な恋人に裏切られて、心身ともに振り回されるくらいなら、一人前のパティシエになって、ブレない生き方をしたい。

 二十三歳でパリに行き、二年の修行を終えた二十五歳の春、私は日本に戻り、とあるスイーツショップにパティシエとして就職した。

 それは、都内の一等地に座す、開業一世紀の歴史あるホテルの中にある。

 《ランコントルカフェ》

 再び前に踏み出す勇気をくれた、彼の働く久我ホールディングスの傘下のランコントルホテルが直属に運営するカフェだ。

 独自のブランドスイーツを取り扱い、カフェのイートインだけでなく、テイクアウトも可能。

 現在はネット販売や老舗百貨店のテナントでも取り扱いがされていて、ランコントルブランドが確立している。

 面接時に、記憶の中の彼と、切れ長の目元がよく似ている総支配人と話をした。

 久我 樹(くが いつき)という名の総支配人は、久我ホールディングスの副社長であり、今年、ロサンゼルスに新設したホテルを軌道に乗せた後、東京に戻ってきて働いているらしい。


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