冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした

 そうして、三年の月日が流れた。

 念願だった有名ホテル直属のカフェで働き始めて仕事に慣れてきた頃、二十八歳の私の前に両親が突きつけてきたのは、重い見開きの写真である。


「藍、この男性と結婚してほしい」


 まさに青天の霹靂(へきれき)だ。

 ニューヨークに傷心旅行をした五年前から、真宮製薬株式会社の経営は傾いていたが、最近は主力商品の特許が切れて大幅な減収となり、さらに崖っぷちに立たされていた。

 会社を継がず、パティシエとして働く条件として突きつけられたのは政略結婚である。

 恋愛は期待していないし、生きがいのためなら反論する気もなかったので、相手の写真すら見なかった。

 向こうの会社は世界的なパイプがあるらしく、グローバル化やIT化を狙っているこちらとしては、願ってもない縁談だったそうだ。

 一方的に嬉しい条件と思いきや、相手側は家柄を重視していて、医療の分野への進出を考えていたところで利害が一致したと聞く。

 相手の男性は二つ歳上らしい。


「彼は仕事に熱心で、頭も冴えて人当たりもいい男性だ」

「政略結婚とはいえ、きっと藍も気にいるはずよ」


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