冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
パリでの海外研修もできる製菓の専門学校を出て、アンジュに勤めて出会い、付き合って二年経つ歳上の彼氏がメインを飾る有名雑誌は、チェックするに決まっている。
ワクワク気分でページをめくったはずが、私が自分の店を持ったら看板商品にしようとしていたものと瓜二つのケーキが目に飛び込んできたのだから、今でも信じられない。
「将来の夢を語りながらレシピを見せたら、褒めてくれたじゃない。どうして裏切ったの?」
「裏切ったなんて、言いがかりはやめてくれ。このケーキは俺が考えたんだ。新作として発表して何が悪い」
平然と言い放った彼に耳を疑う。
ひどい。しらばっくれるつもり?
初めて人を好きになって、誰よりも信頼していたのに、こんな結末はないわ。
百年の恋が一気に冷めた感覚に陥った。平気で嘘をつく彼は、私が憧れていた大人の男性とはかけ離れている。
貰っていた合鍵をソファに投げ、ひとり、マンションを出た。
十二月の夜風は身を切るように冷たくて、知らず知らずのうちに涙が溢れる。
信じたくない。期待に満ち溢れてふくらんでいた夢も、繊細で温かい愛情も、全てが凍りつく。