冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
もちろん、業務提携が狙いとはいえ、結婚を意識する年齢で浮いた話がひとつもない娘を心配している節もある。
唯一、妹の蘭だけは私を心配していたものの、代わりに政略結婚をさせるのはなによりも避けたいので、ひたすら納得している素振りを見せた。
しかし、心の中には不安もある。
もしも夫婦になったら、それなりに恋人らしい触れ合いをしなければいけないのかしら。好きになった人じゃないのに、キス以上のことができるとは思えない。
話を聞く限り、彼もまた仕事人間だと噂なので、案外、淡白かもしれない。その方が、お互い都合がいいわ。
世界的なパイプを得るのを目的とした政略結婚であるため、グローバルな会社の御曹司は現在アメリカにいて、両家の顔合わせの日程に合わせて帰国するそうだ。
相手の父親は仕事で世界中を飛び回っており、親族も予定を合わせられないため、結納や結婚式は執り行わないと話がついた。
顔合わせについての話し合いは、互いの母親がメインとなって進めている。
辰巳さん、と両親の口から話題が出る度に、私の名字は辰巳になるのだと想像してみるものの、あまり実感は湧かなかった。