冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 セレブ御用達のクラブフロアに常勤なんて、普通のスタッフには任されない。

 完璧な接客技術と幅広い知識、語学力、さらにはどんなトラブルにも対応できる頭の回転の良さも必要だろう。

 私と出会った頃、久我さんはEAMだったけれど、現在、ニューヨークのホテルでは、総支配人として活躍しているとの噂が耳に入っていた。優秀な彼がクラブフロアで働くのは頷ける。

 また、一目会えるかもしれない。

 そう思った瞬間、期待が高まって心臓がドキドキと鳴りだした。

 今まで、優しくてスマートな王子様と出会った日の夢を何度見ただろう。

 ランコントルホテルでは、六百名以上の従業員が働いているし、私のようなしがないパティシエが会うチャンスはない。

 でも、きっとこの機会を逃せば、二度と話せなくなる。


「今日のバータイムの納品、私に行かせてください!」


 ちょうど今夜は、クラブフロアのラウンジで有名企業のミーティングの予約が入っていた。

 オードブルやおつまみ、飲み物以外にも、ランコントルカフェからスイーツプレートとドライフルーツの納品予定がある。

 宿泊客ではない限り、一般人の立ち入りができないフロアへ足を踏み入れるには、納品担当になるしか方法がないのだ。


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