冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
働き始めた当初から久我さんとの出会いの話はしていたため、上司達は快く背中を押し、私情を隠しながらペストリーシェフに進言をしてくれた。
仕込みの仕事を終えてからという条件で、納品担当にうまく抜擢される。
バータイムは十七時から。時刻が近づくにつれて緊張が高まっていく。
五年越しに、やっと会えるんだ。
従業員専用のエレベーターで最上階に向かい、ラウンジに一歩踏み入れると、そこには別世界が広がっていた。
大きなガラス窓からは都内の夜景が一望でき、シャンデリアで色づいた空間は、大人な夜の雰囲気が漂っている。
品の良いグレーのカーペットが敷き詰められた床と、ダークブラウンが基調の壁は、美しくラグジュアリーな印象が強い。
落ち着いた深紅のソファが並んでおり、華やかながらもゆったりと過ごせそうだ。
ミーティングが入っているためか、今の時間帯はちょうどお客がひとりもいない。慌ただしくスタッフが移動していた。
「発注分、確かに承りました」
カウンター担当の男性が配布の準備に取り掛かる。もちろん不備はなかったため、私の仕事はすぐに終わってしまった。
久我さん、いるかしら。
こっそり辺りを見回していた、その時だ。