冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
そのまま押し込められる体勢でスイートルームに入り、扉をすぐに閉める。
心臓がうるさくて状況が理解できず、頭が追いつかない。
「く、久我さん」
無言で人差し指を口元にあてるポーズをされて、すぐ口をつぐむ。スコープから外を覗いた彼は、数十秒後にやっと私を放した。
「やっと撒いたか。押しかけてくるとは予想していたけど、このタイミングとはな」
眉を潜めながら、小さくつぶやいている。
部屋の中に進み、ふたり分は足を伸ばして座れるほどの広くてふかふかのソファに腰を下ろす久我さんを、ただ見つめるしかできない。
スイートルームは、想像通りの贅沢な部屋だった。お洒落な透明のテーブルに、色彩の整えられた絨毯とカーテン。繊細な装飾が施されたランプの近くには、シワひとつないキングサイズのベッドがある。
ドッと疲れが出た様子の久我さんが額に手を当てて座る姿は、見事にスイートルームと調和していて、ひとつの絵画のようだ。
実家が傾きかけている没落社長令嬢の私とは違って、セレブな雰囲気がよく似合うな。
立ったまま眺めていたとき、切れ長の目がこちらをとらえた。視線が重なってドキリとする。