冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
「さっきは巻き込んで悪かった。瑠璃川財閥の社長令嬢は、とんだワガママ姫なんだ。次、ひとりでいるときに会ったら、絡まれる前に逃げたほうがいい」
だいぶ重めの好意を寄せられているのはすぐにわかったけれど、彼の忠告に頷く前に、これだけは言いたい。
「女性避けにするのは構いませんけど、妻設定で誤魔化すのはやめてください。後で刺されそうです」
「設定?」
ぱちりとまばたきをされた。一瞬だけ見せた子どものような反応に、こんな顔もするんだ、なんて心が揺れる。
「俺たちはじきに夫婦になるだろ? だから昨日、エレベーターで挨拶をしてきたんじゃないのか?」
「はい?」
とんでもない話の展開に、低い声で聞き返した。
何かの勘違いが起こっているのかと思ったが、久我さんは眉を寄せて続ける。
「君は、真宮製薬株式会社の社長の娘さんだよな? 来週、両家の顔合わせがあるって聞いていないのか?」
「たしかに私の家柄は合っていますし、政略結婚の話も納得していますけど、相手は久我さんではありません。たしか、えーと、辰巳さんって言っていたような」
「辰巳は俺だ。面倒な理由があって母とは名字が違うと、説明はしてあるはずだろ?」