冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


「私は、過去にお世話になったお礼を、純粋な思いで伝えたかっただけなんです。でも、久我さんが覚えていないなら、忘れることにします。お互い結婚に理想はないようですし、ちょうど良かった」


 もう、久我さんはバイクの王子様と別人だと思うことにしよう。

 女性の扱いに慣れていて、キスのフリもスマートにできる大人の男性。にこやかな営業モードに隠されている刺々しい一面があるのも知った。

 容姿端麗で誰もが見惚れるエリートは、相当クセのある人だったみたい。憧れの王子様、なんて夢にまで見ていた自分が恥ずかしくなる。


「俺も、企業提携という面でメリットのある結婚だと受け入れていたけど、妻が愛だなんだと言わない女性で助かった」

「だいぶ人付き合いにドライなんですね。社内にファンも多いようですし、そういうイメージは全くありませんでしたけど」

「仕事では円滑に業務が捗るように、演技をするのは当然だろ。俺は、愛ってものに少しも価値を感じていないんだ」


 彼は私と似ているかもしれない。

 全てに諦めがついていて、達観している雰囲気が漂っているのに、どこか危うくて寂しそう。

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