冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
素直になれないふたり
「荷物はこれで全部か?」
「うん。服は全部運び込んだし、元々物が少ないから」
格式ある老舗料亭での顔合わせを終え、五月の頭に入籍をした。夫婦になると同時に、新生活に向けての準備に取り掛かる。
椿さんと相談をして、形だけでも夫婦らしくしようという話になり、職場から車で三十分ほどの都心に部屋を借りた。
様々な手続きを済ませて、五月下旬に同居を始める流れとなったが、もちろん、寝室は別。お互いの自由時間を邪魔しない作りで、と条件が合うように契約を全て椿さんに任せたところ、想像よりもずっと豪華なレジデンスが新居となった。
強固なセキュリティを売りにした物件で、一階のフロントには常駐のコンシェルジュがおり、フィットネスルームやラウンジ施設も利用ができるようだ。
三十三坪の2LDKはとても広く、白い壁が基調で、扉や棚、床は濃いブラウンのウッド調のデザインである。
内装は全てインテリアコーディネーターにお任せしたらしく、部屋の雰囲気に合わせて、ラグジュアリーながらも落ち着いた品の良い家具ばかりが揃っていた。
本人曰く、『財力にものを言わせたというより、同居に関する労力を最大限削減しただけ』だそうだ。