冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 好みを事前に聞いてくれていたので、私の部屋は、シンプルかつシックなデザインの家具が多い。セミダブルサイズのベッドは、ゆったりひとりで眠れる大きさで、贅沢すぎる気がした。

 唯一お願いしたのは、キッチンの電化製品の充実である。

 料理は好きだし、休日は気分転換にお菓子作りもしたい。

 性能はあまり多くを望まなかったものの、揃えられた家電は全て最新型のモデルで、つい胸が躍る。使いこなすまでに時間がかかりそうだけど、自由に使えるのは嬉しかった。


「食事はお互い好きな時間にとろう。自分の分は自分で用意するってことでいいか?」

「わかったわ。通勤は電車でいい?」

「ああ。でも、藍の出退勤の予定に時間が合えば、俺の車で一緒に移動しよう。毎日通勤ラッシュはつらいだろ」


 新居からのアクセスは、最寄りまで十分ほど歩くとはいえ、電車で数駅だ。

 ひとり暮らしのとき、職場まで電車で一時間半かかっていたため、通勤時間が短くなっただけで満足なのだが、椿さんは私を気遣ってくれている。

 そのとき、ふと駐車場の車が脳裏をよぎった。


< 42 / 202 >

この作品をシェア

pagetop