冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
自室へ去っていく背中に、何も言えない。
プライベートには干渉しない、それが私たちの決めた仮面夫婦の掟だ。どんな生活スタイルだろうと、とやかく言う権利はない。
椿さんは掃除や洗濯も分担してくれるため、同居する上でのストレスはなかった。
その分、相手の考え方や仕事について首を突っ込むのは喧嘩の元になりそうで、避けてしまう。
愛のない妻とはいえ、夫の心配をするのはいけないのかな。
気遣いが先行して、言いたいことを言えないモヤモヤが胸に込み上げた。
なんとなくスッキリしない夜を過ごした翌日、帰宅すると、再び電話をする椿さんの姿があった。
珍しく私よりも早く帰宅しているものの、表情は険しく、英語も早口で何を言っているかが遠くからは聞き取れない。
通話を終えたタイミングを見計らって声をかける。
「どうしたの? 様子がいつもと違うけど」
「ああ、今からニューヨークへ向かう予定になった」
「ええっ! 一体どうして?」