冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
アドレスを交換しているSNSを眺めていたとき、『明日の夜に帰る』と短い連絡が入ったのだ。
帰宅中の電車で通知を受け取り、どきんと胸が鳴る。
普段なら先に寝ていいと言われているし、お互い干渉しないため、ほぼルームシェア的な関係で生活しているけれど、今回はさすがに顔を見て体調を確認したい。
翌晩、ソファに座って帰りを待っていると、玄関の鍵が開く音がした。
急いで廊下に顔を出した私は、ご主人様を迎えるペットの犬並みに速かっただろう。
案の定、疲れた顔をしていた椿さんは、私が起きていると気づいて目を丸くする。
「まだ寝ていなかったのか? もう二十三時だぞ」
「椿さんが心配だったから……お仕事はどうだった?」
「なんとか丸く収まったよ」
元々エグゼクティブルームに泊まる予定だったお客様に、格上のスイートルームに同じ値段で泊まれるように交渉をして、マダムの希望が通る形にしたそうだ。
さらに、宿泊料を半額ホテルが負担するサービスをして、マダムの怒りをしずめたらしい。
どれも椿さんが丁寧でスマートな対応をした結果である。
よかった。トラブルは無事に解決できたんだ。