冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
昨日あんなに死にそうになってたのに、別人みたい。いつもの隙のないエリートホテルマンに戻っているわ。
「おはよう。飯、ありがとう。やっぱり和食は良いな。すごく美味かったよ」
ぱちぱちとまばたきをしながら「お口にあってなにより」と返す。
すると、彼はジャケットを羽織って席を立った。
「もしかして、もう出勤するの?」
「ああ。ニューヨークでの一件を報告しないといけないし、突然渡米した埋め合わせに、クラブフロアのミーティングにも顔を出して、宿泊客のプランに目を通したい」
時刻はちょうど六時だ。いくらなんでも、仕事人間すぎる。
よく見たら、顔色も優れない。十四時間の時差があるニューヨークから帰国したばかりなら、まだ時差ボケもあるはず。
つい、すれ違う彼の腕を掴んでいた。
目を見開いて振り向いた椿さんに、力強く伝える。
「今日は休んだ方がいいわ。そんな体調じゃ、車で事故を起こすかもしれない。昨日まで渡米していたのは知っているはずだし、総支配人の樹さんに連絡すれば、当日でも年休の許可はもらえるはずよ」