冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
優しく振り払われて、心の読めない微笑の仮面が視界に映った。
「心配してくれるのか? こういうのは慣れているから、気遣いは必要ない」
この人は、また誤魔化してひとりで抱え込む。人当たりが良くて周りには甘いくせに、誰にも頼ろうとしないで辛さを見せない。
再び歩きだそうとした姿に、意思が決まった。
行く手を阻むように回り込み、壁ドン状態で囲い込む。ギョッとして固まる椿さんに、勢いよく言い放った。
「カフェインをとって無理しようとしても、今日は行かせません! 昨日、浴室で溺れそうになっていたのは誰!」
部屋が静まり返り、ふたりの間に、なんとも言えない戸惑いの空気が漂う。
初めて面と向かって主張して、やっと、ちゃんと目が合った気がする。
向こうが呆気に取られている隙に、腰に軽く抱きついて体を引っ張った。
「ベッドに戻って。抱っこで運ばれたいならそうするけど?」
くっついたまま、数秒の時が流れる。こっちは眉を寄せて一歩も引かない。
「……持てないだろ? 自力で行く」