冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 無意識に、スマートフォンで航空会社のホームページを開いていた。格安と謳う会社の一ヶ月後の国際線のフライトは、まだ空きがある。

 傷心旅行にはちょうどいい。どこを歩いても嫌な記憶が蘇ってくる日本から離れて、非日常の世界に行ってみよう。

 一月下旬、飛行機が着陸したのはニューヨークだった。

 いつか来てみたいと考えていたし、いい機会だったかも。滞在中は、ひたすら観光やカフェ巡りをして気分を上げたいな。

 そう思っていたけれど、ひとり旅は虚しさを感じる瞬間も多い。

 やっぱり、失恋して一ヶ月経っても、心の傷は簡単に癒えないわ。悪夢のようなひどい裏切りに遭ったんだもの。

 ついに旅行最終日となり、ホテルでスマートフォンを見ていたとき、ふと目に留まったのは、市内に位置する世界最大級のオペラハウスの公演の記事だった。

 せっかくなら傷心旅行の締めくくりに観て帰ろうと、チケットはもう取ってある。あとは会場で引き換えるだけだ。

 一月のニューヨークは震える寒さだが、厚めの布地で作られた淡いブルーの膝丈コートに、白いマフラー、体型を隠す黒いワイドパンツで、防寒対策もバッチリである。


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