冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした


 オペラハウスから少し距離のあるところに、目星をつけていたカフェがあったので、モーニングを食べて十時の開場に向かう。

 まずい。慣れない土地で迷っていたせいか、移動に少し時間がかかっている。

 スマートフォンでたまに地図を確認しつつ、人通りの少ない路地に入った。

 ここが一番の近道みたいだけど、合っているのかな?

 眉間にシワを寄せながら歩いていたそのとき、目の前から歩いてきたふたり組の男性に、突然、持っていたスマートフォンを掴まれた。

 あまりにも予想外の展開だったので、とっさに指に力を入れることが出来ず、易々と取られてしまう。

 しかし、彼らはスリというわけではなく、その場から逃げようとはしなかった。怪しい笑みを浮かべながら、早口で何かを言っている。

 歳は二十代前半くらいで、パーマをきかせたドレッドヘアーだ。ダウンジャケットから覗く首にはタトゥーが入っていて、日本では遭遇した経験のないタイプだと悟る。

 一気に恐怖感に包まれた。周りには通行人がいない。どうすればいいの?


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