冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
背中にたくましい手が周り、抱き寄せられた。ほのかに香るスパイシーながらも甘い香水が、彼の存在を強く意識させてくる。
突然、距離が縮まって、思考が停止しかけた。
「な、なに?」
「抱きしめたくなった」
声は至って冷静で、余裕のなさは感じられない。自由で猫みたいな性格の彼に、こちらばかりが翻弄されている気分だ。
「嬉しいのかもな。藍が、あんなことを言ってくれるとは思わなかったから」
瑠璃川さんへの反撃を指しているのかな。自分でもなにを言ったのか、緊張でよく覚えていない。
余裕で言い返したようで、内心は心臓がバクバクだった。
「瑠璃川さんが言っていた内容は本当なの?」
「……親父の話は真実だよ。祖父に付き合いを反対されて、半分駆け落ち状態で家を出たくせに、結局は圧力に負けて母さんを捨てたんだ。俺を身篭っていると知った途端、後継ぎ目当てでいきなり目の前に現れて、ニューヨークで教育を受けさせられた」