冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
仮面夫婦の掟のひとつ、『気まぐれに手は出さない』を指しているようだ。彼は心臓に悪い。
本当に私が抱いてと迫っても、スマートにかわす姿が想像に容易い。
飄々としているようで、私が傷つく言動はしない。むしろ、「自分を安売りするな」と諭される未来すら描ける。
少しずつ椿さんについてわかってきた。彼は考えが読めない完璧超人なようで、案外素直でわかりやすい男性だ。
心の傷を嘘の笑顔で隠すのに慣れた真面目な子どもが、甘える方法を知らずにそのまま大人になってしまったみたい。
素の彼は、実はとても情の深い人なんじゃないかな。
そうでないのなら、タチの悪い令嬢に絡まれている私を助けるはずがないもの。
今は心の窓が曇って見えなくなっているけれど、かつてニューヨークで出会った王子様は、たしかに彼の一部分なのかもしれない。
そんな都合の良い想像を信じ始めている自分が、後戻りの出来ない沼にはまっていく気分になって、久我 椿という男の魅力を改めて実感した夜だった。