冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
「私もちょうど十四時ごろに休憩に入るから、良かったら軽食を差し入れようか?」
「本当か? 助かるよ。都合がついたら、SNSで連絡を入れてくれ」
電話の他には、私用のSNSでよく連絡をとっている。職場なので、数回の会話ですぐに別れた。
やりとりを見ていた女性の上司達からは「カッコ良すぎる旦那が職場にいるの羨ましい〜」と肘でつつかれたけれど、ぎこちない笑みで返す。
傍からみれば、仲睦まじい新婚夫婦に思われるだろう。
ただの他人くらいの関係から、こうやって会話を交わすようになるまでの道のりは遠かった。
今は、夫婦というより、気を遣わずに時間を過ごせるようになった相方くらいの認識だろうか。
まだお互いについて詳しく知っているわけではないし、甘酸っぱい恋愛感情などは一切ない。いわゆる、職場では順調を装う仮面夫婦のままだ。
時間になり、カフェでふたり分のサンドイッチを買って、スマートフォンを起動させる。
【休憩に入ったよ。軽食はクラブフロアまで持って行った方がいい?】
すると、すぐに返事が来た。
【俺も仕事を抜けた。今日はそこまで暑くないし、ホテル近くの公園で、一緒に食べるか?】