冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
予想外の提案に、返事を打つ手が止まる。誘われたの、初めて。
職場ではお互い仕事モードに切り替えているし、廊下ですれ違っても会釈をする程度だった。
なんてことない約束なのに、そわそわして落ち着かない。どこか一線を引いたままだった彼が、歩み寄ってくれるようになったのが嬉しいのかな。
自分でも、自分の気持ちがよくわからなかった。
ランコントルホテルを出て少し歩くと、五分も経たないところに緑地公園があり、子ども連れがちらほら遊んでいる。
都会にいながらも穏やかなひとときが過ごせる場所は、遊具やバスケットゴールが設置されていて、遊び場にもってこいだ。
椿さんは、木陰のベンチに座っていた。さりげないシャドーストライプの入ったダークスーツは、上品で高級感がある。
ホテルを一歩出た休憩中だからか、上着を脱いでいるシャツ姿が新鮮だ。
自然の多い公園のベンチにいると、周りの雰囲気とあまりにも世界が異なっていて目立つな。
「お待たせ。公園にいるとは思わなかった。ここにはよく来るの?」
「休憩をゆっくり取れた日は、たまにな。サンドイッチか。ありがとう」