冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
流暢な英語とともに、肩を抱いていた男性の腕を力強く掴んで振り払った。
苛立った様子の男性が掴みかかるが、軽やかながらも手加減なしに手首を掴み、難なくひねり上げる。
すごい。護身術に優れているみたいだけど、彼は一体何者?
そのとき、近くで警察のサイレンが聞こえてきた。顔を見合わせた男性ふたり組は、スマートフォンをこちらへ投げつけ、罵倒の捨て台詞を放って駆け出していく。
偶然でも、助かった……!
一気に緊張が解けてふらついた体を、救世主の彼がとっさに抱きとめる。
『大丈夫か』
英語で話しかけられて、初めて目が合った。サラサラの前髪から透けて、この世のものとは思えない美しい造形の顔が近づく。
身長は百八十を超えるくらいだろうか。近くに寄って、百五十センチ前半の小柄な私とは三十センチほど差がある。
『すみません、足の力が入らなくて』
『君は観光客か?』
『はい、日本から来ました』
すると、小さく息を吐いた彼は眉を寄せながら続ける。
「日本人か。たしかに、観光客でもなければ、この路地は通らない。ここは薬を売り付けてくる厄介な奴らが多いからな」