私をみつけて離さないで
早世し、体の一部しか戻らなかったご両親に会わせてくれたその意味を噛み締める。

「連れてきてくれてありがとうございます、辛いお話もしてくれて、嬉しいです」

痛みを分かち合いたい、真さんの背をそっと撫でると耳元でわずかにすすり上げる声がした、真さん、泣いてる?

「きちんと両親に紹介したかった、もう少し早く君に出逢えてたらな……僕が京都に来たのがいけなかったのか」
「そんなことないです」

私は真さんの背に当てた手に力を込める。

「そうしたら、もしかしたら真さんはまだ横浜で、私だけが京都にいて、出会うのがもっと遅かったかもしれません」

人生の分岐点は一度しか選べない、その選択は戻ってやり直すことはできないんだから、真さんが中学生の時にこの地に来たことは間違いではないんだ、そんなことまで後悔してほしくない。

「ありがとう」

真さんの声が耳元でする、その声はもうしっかりとしていた。再度ぎゅっと抱き締められ、髪を梳くように頭を撫でられて真さんは離れた、顔を見上げたけれど泣いた跡はないようだ。

「そうだね、後悔して、過去ばかり見ていてもしかないよね」

最後に大きな墓石を見上げ再度手を合わせた、また来ますね、そんな気持ちを込めて。





駐車場を出てしばらく走ると、先輩が左側の壁を指さす。

「ここ、うちだけど、寄ってく?」
「──へ?」

うち、って住んでいる場所、ってことだよね? 延々と続くなまこ壁……え、嘘でしょ、博物館とかそんな建物なのかと思ってた! これが岩崎財閥の実力か!

「え……っ、いや、今日は、ちょっと……」

心の準備は、多いに必要だよ!

「おじいちゃんも会いたがってるよ、いつ紹介してくれるんだって」

ひえーっ、確かにお会いしてるもんなあ! その時自己紹介くらいしておけばよかった!

「まあ、今日はいいか。確かに急に連れて行ったら、奈海さんに叱られそうだ。あ、奈海さんっていうのはお手伝いさんをまとめてくれてる人で、女中頭とでもいうのかなあ」

家屋は見えないけれど、敷地を囲っているであろうこのなまこ壁の長さを見ても家の広さは想像つく、ナミさんはどれだけの人数のお手伝いさんをまとめているのだろう。そんなことを考えてもドギマギしてしまう。

山間の小さな町の道を車は進む。その道中、中華料理店が目に入った、途端に鼻の奥でいい匂いを感じてしまう、いや幻覚だけど、お腹が空いたらしい。中華、いいな……ラーメンとか……。

「あ、ラーメンなら市街の方がいっぱいお店があるよ」
「──は?」
「京都って意外とラーメン激戦区なんだ、おすすめあるからそこへ……あーごめん」

これまでにも何度か聞いた「あ、ごめん」だ、そう、それはこんな時だった!

「え……真さんって、エスパーですか?」

心を読める系の!

「うーん、そうだよ、っていうほどの事はないんだけど」

真さんはハンドルを握ったまま困ったように微笑む。

「でも多分、普通の人より相手の心の機微は判ると思う。今もお腹空いたなって思ったでしょ」
「はい」
「それははっきりと判った、でも何が食べたいかまでは、正直言えば判らない、それはなんとなく、勘」
「勘でも!」

いきなり市街の方がお店が多いなんて会話の持って行き方はおかしいでしょ!
< 10 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop