私をみつけて離さないで

６．夏の夜

７月になった。
今日も今日とてデートです！　今日は大阪まで遊びに来た。なんかすごく遠征している気分だけど、関東で言えば東京と神奈川を行き来している感覚に近いようだ。遊び場感覚みたい。

「香織さんは夏休みは帰省しないの？」

お昼ご飯に入ったファミレスで、真さんがクリームソーダをつつきながら言う。意外と甘いものが好きみたい、しかも恥ずかしげもなくそういうのを頼むから可愛い。

「うーん……悩んでて……」

やっと親や家族から解放されたと思っている、正直長期の休みだからといって帰りたくはない……こっちで真さんとこうして会う方が楽しいし。

「お盆くらい帰りなよ、新幹線のチケット用意してあげる」
「ええ、いいよぉ」

デート代もいつも真さんが払ってくれている、もう働いてるようなものだから気にしないでっていうから甘えてしまっているけど……そうか、お金がかかる、それを言い訳に帰らないという手も。

「大丈夫、安く買えるとこあるから」
「え、経費で落としちゃダメだよ？」
「そんなことしないよ、駅まで送り迎えもしてあげる」
「寮から駅までは遠くないよ」

寮から地下鉄の最寄り駅までは近い、京都駅まで簡単に行ける。

「お見送りくらいさせてよ。ちゃんと帰るか見届けたいし」

信用ないなあ。

「親にいつでも、いつまでも逢えると思わない方がいい。どんな相手だとしてもだよ」

そんな言葉は真さんから出ると重すぎる、既にご両親を亡くした真さんの──あれ？

「え？」

ふと思った疑問が声に出た、それは真さんにも判ったようだ、んもう、真さんのその能力は……！

「そうだよ、僕は両親が高校を卒業してまもなく生まれてる」

ですよね！　39歳引く大学３年生だもん！

「妊娠がわかると学校からは自主退学を勧められたらしいけど、父の友人がかばってくれたおかげで最後までいられたんだって。でも母親は卒業式にはもちろん不参加、年末くらいから登校もしてなかったって言うから、褒められたことじゃないし、自慢できることでもないけど、親はきちんと僕たちを育ててくれてたよ、もちろんいろんな人からサポートは受けてたけど」

サポートか、そりゃ金銭的にはこれだけの金持ちの家の子ならお金の心配なんか。

「あ、父ね、またとびきり祖父と、僕からすると曽祖父と仲が悪かったんだ、ひとりっ子なのに絶対跡は継がないって言い張ってたし、京都の世話にはならないって啖呵切ってて」

ええ、そんなことできるの？

「うん、現に祖父も祖母もそのつもりでいたよ。だからおばあちゃんがこっそり、父には内緒で僕や母を連れて洋服を買いに行ったりだとかして、直接現金どうぞ、じゃなかったけど」

真さんはにこっと微笑んで話を続ける……って、真さん、あのね。

「今の僕の年のころには、すぐ下の弟もいた、父は子供がふたりいても大学には通ってたよ。その学費は祖父母が払ってたけど、そもそも父は英語とフランス語が堪能だったから、その翻訳の仕事でそこそこいいバイト代はもらってたみたいで、主な生活費はちゃんと自分たちでまかなってたね」

後に聞いたのは、お母さんは横浜山手のお嬢様で家持ちでもあったそうだ。真さんも幼少期は育ったその家は、お母さんのお兄さんも一緒に住んでたから固定資産税はお兄さんが払っていたとか……そういうサポートか。

「まあ、母は金髪だったし、どこからどう見ても若すぎる両親に世間の風当たりがなかったわけじゃないけど、僕たち家族は仲良く幸せにやってたし、楽しかったよ。あ、別に無計画だったわけではないと思うよ、父が母を好きすぎたんだよね、子供がいれば家でおとなしくしてるだろうしって思惑があったみたい、まあ全然おとなしくしてる人じゃなかったけど」

活発なかただったのかな。

「うん、母は空手が趣味だったんだよね、僕が幼稚園入る前だったけど覚えてるよ、逃げた万引き犯追いかけて蹴り入れてた」

わ、すごい！

「うん、母は強かったなあ、僕は母とは戦わないって思ったし、さすがに父は怒ってたけどね。まあ何より、お前が産む子供が可愛すぎるとかよく言ってたし」

わあ、ベタ惚れだったんだなぁって判るぅ。今の真さんと重なる──。

「僕はまだまだだなぁ。父やおじいちゃんみたいに強引にはなれきれなくて」

いやいや、十分強引ですよ？