私をみつけて離さないで
「そうかなあ、これでも随分我慢してる……」
「って、真さん! 私の心の声と会話しないで!」
「あ、ごめん」

って、にこって微笑む、もう、しかもちゃんと会話になってたし! なんとなく判るなんて絶対嘘じゃん!

「本当になんとなくだって、あ、ごめんごめん。あ、それでさ、お盆だけ帰るなら、祇園祭に行こうよ」
「祇園祭!」

簡単に会話を変えられてしまった、だって京都の三大祭といわれているもののひとつだ。
もうひとつの葵祭も誘ってくれた、有料の観覧席を取ってくれたのだ、とてもよかった!

「もう始まってるけどね」

なんと、7月中はあちらこちらでなにかしらの行事があるらしい!

「観に行こうよ、場所取りしておくから」

また有料観覧席かな?

「ううん、クーラー効いたとこ。この時期の京都は殺人的な暑さだからね。実は例年、三大祭は家族が集まる大事な日だったんだ」
「……家族が集まる……」

真さんのご両親の顔が浮かんだ、って存じ上げないんだけど。

「京都嫌いの父も、その日ばかりは来てくれた。母が見たがったからね。僕が早々に親元を離れてこっちに来たのもあるから僕に会いにっていうのもあるけど、母も多分気を使ってはいたんだ、ひとりっ子の父が跡を継がないって言い張っているのはどうなんだって。実は祖父も跡は継がないって若いころに家を飛び出して、何十年も帰ってこなかったらしい」
「ええ!?」

なにがあったんだ、これほどの家を捨てようとするなんて!

「祖父は判らないけど、父は閉じ込められるような感覚が嫌だったみたい。もともと父はイギリスで生まれ育ってね、それでいきなり跡継ぎはお前だなんて言われて、プレッシャーだったみたい」

なるほど、それは確かに無理かも。

「でも祖父は年齢を重ねて諦めたんだろうね、僕が物心ついた頃には曽祖父と仲のいい喧嘩をしながら、二人三脚でやってたよ。その祖父の背を見て僕も勉強中」
「そっかあ」

おじいさまは、嫌っていたとしてもいろんな思いがいっぱいあるんだろうなあ。

「最初は曾孫会いたさに曽祖父がセッティングした祭りの観覧だったんだけど、いつのまにやら慣例になってたね──昨年の葵祭が、父たちが来た最後になったけど」
「──そっか」

そのあとご両親は外国に……葵祭を見ていても、そんな気配は感じさせてなかったな、実は淋しい思いをしていたのを気付かなかっただけかもしれないけど。

「え、あ! じゃあ、今年もみなさん、揃うの!?」

葵祭はいなかった! だから祇園祭は!? え、そこに私もって……!

「弟たちは戻ってくるみたいだけど、大丈夫だよ、僕は別行動する。まだ恋人なのに、家族に付き合う必要ないでしょ?」

うん、そうだけど、ありがたいけど、やっぱりちゃんと挨拶を……でもせっかくの家族だんらんを邪魔することになるのか、じゃあ、やっぱり改めての方が……。

ちなみに、戻ってくるのは、真さんの一番下の弟さんと外国に住んでいるという妹さんだ。一番下の弟さんは現在は兵庫の高校に通っていて寮住まいらしい。
すぐ下の弟さんはお屋敷に住んでるはずだけどほとんど戻らなくて、どこにいることやら、らしい。しかも同じ大学の二年生で工学部に通っているはずだけれど、未だ会ったことはなかった、学部が違うと会わないものなのね。
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