私をみつけて離さないで
☆
髪をそっと撫でられた、意識が僅かに浮上する。
「香織、起きて」
優しい声にはっとした、今どこにいて、なにをしているのか──! なにより呼び捨てに心臓が跳ね上がる。
夕べ、もう「さん付け」はやめてと言ったのだ、なんとも他人行儀ではないか。
こんな時にまでそんな風に呼ばれるのは嫌だと言ったらすぐにやめてくれたけど、呼び捨ては逆に動悸が激しくなるのがわかった。呼ばれるだけで体の奥がきゅんとしてしまうなんて知らなかった。
今なおドキドキしてしまう気持ちを抑えて目を開けた先には、明るい窓を背にして、濡れた髪をそのままにベッドの中で頬杖をついている真さんがいる。
にこりと微笑む姿がまぶしい……!
「早くしないと巡行始まっちゃうよ。幸い部屋から見えるから裸のままでもいいけど、シャワーくらい浴びてきたら?」
そう夕べはそのままホテルに──ラブホテルじゃない、ちゃんとしたホテルだ。予約していたのか準備万端じゃん、と思ったらそうではなかった。
手を繋いだまま、すぐ近くのホテルにトコトコ入っていって「部屋は空いてますか?」と聞いた。フロントの方は真さんを知らなかったけど、奥から出てきた年配の方が「岩崎の!?」って驚いていた、さすがに有名人なんだな。でもさすがに空きはなくて、ホテルマンは最敬礼でお詫びをしていた。
そこを出てから電話を。
こんな時期に空きなどないんじゃ?と聞いたら、意外とドタキャンは多いのだといっていた。そうか、真さんちもホテルやってるもんな、その辺の事情は詳しいのかも。
じゃあ岩崎家が経営するホテルへ行くのかと思ったら、これまた違った。でも確かに、そんなところに急に泊まりに行ったら、真さんが家に帰った時、絶対なんかいわれちゃうよね。
幸い電話をした2軒目のホテルで泊まることができた、広い部屋はスイートじゃないかと思えるほどだけど、真さんは気にした様子はなかった。
初めて同士だ、よろしくお願いしますから始まったような情事なのに──やっぱりずるい、真さんの力はこの時とばかりに発揮されたような気がする。不慣れだからごめんねといいながら、いいとこばかり、いいとこばかり、いいように、いいように、執拗に、徹底的に、責められて……!
『いい』のに『嫌』と口から零れるのは本当だった、もちろんそんなことは真さんには筒抜けでやだやだというところを丹念に、優しく、強く、じれったく、いじめ抜かれた。それは本当に初めてとは思えないほど的確な場所を最適な力加減で刺激されて、本当に気持ちよくて──私が上り詰めれば真さんも興奮するのが判って、それが嬉しくてもっとって望んだ、初めてなんだから少し抑えようとかいわれて──思わず枕に顔を伏せる、思い出しただけで体が火照ってくる。
その背を真さんの体が覆う、湿り気のある肌が触れ合って、それだけで声が漏れそうになった。
「……続き、しようか」
耳孔に注がれる声、夕べのことを思い出してしまう。
愛しい人の優しい声、何度も名前を呼んでくれた、嬉しくて、それだけで果ててしまう感覚で──。
「──無理」
心も体も、限界です。
髪をそっと撫でられた、意識が僅かに浮上する。
「香織、起きて」
優しい声にはっとした、今どこにいて、なにをしているのか──! なにより呼び捨てに心臓が跳ね上がる。
夕べ、もう「さん付け」はやめてと言ったのだ、なんとも他人行儀ではないか。
こんな時にまでそんな風に呼ばれるのは嫌だと言ったらすぐにやめてくれたけど、呼び捨ては逆に動悸が激しくなるのがわかった。呼ばれるだけで体の奥がきゅんとしてしまうなんて知らなかった。
今なおドキドキしてしまう気持ちを抑えて目を開けた先には、明るい窓を背にして、濡れた髪をそのままにベッドの中で頬杖をついている真さんがいる。
にこりと微笑む姿がまぶしい……!
「早くしないと巡行始まっちゃうよ。幸い部屋から見えるから裸のままでもいいけど、シャワーくらい浴びてきたら?」
そう夕べはそのままホテルに──ラブホテルじゃない、ちゃんとしたホテルだ。予約していたのか準備万端じゃん、と思ったらそうではなかった。
手を繋いだまま、すぐ近くのホテルにトコトコ入っていって「部屋は空いてますか?」と聞いた。フロントの方は真さんを知らなかったけど、奥から出てきた年配の方が「岩崎の!?」って驚いていた、さすがに有名人なんだな。でもさすがに空きはなくて、ホテルマンは最敬礼でお詫びをしていた。
そこを出てから電話を。
こんな時期に空きなどないんじゃ?と聞いたら、意外とドタキャンは多いのだといっていた。そうか、真さんちもホテルやってるもんな、その辺の事情は詳しいのかも。
じゃあ岩崎家が経営するホテルへ行くのかと思ったら、これまた違った。でも確かに、そんなところに急に泊まりに行ったら、真さんが家に帰った時、絶対なんかいわれちゃうよね。
幸い電話をした2軒目のホテルで泊まることができた、広い部屋はスイートじゃないかと思えるほどだけど、真さんは気にした様子はなかった。
初めて同士だ、よろしくお願いしますから始まったような情事なのに──やっぱりずるい、真さんの力はこの時とばかりに発揮されたような気がする。不慣れだからごめんねといいながら、いいとこばかり、いいとこばかり、いいように、いいように、執拗に、徹底的に、責められて……!
『いい』のに『嫌』と口から零れるのは本当だった、もちろんそんなことは真さんには筒抜けでやだやだというところを丹念に、優しく、強く、じれったく、いじめ抜かれた。それは本当に初めてとは思えないほど的確な場所を最適な力加減で刺激されて、本当に気持ちよくて──私が上り詰めれば真さんも興奮するのが判って、それが嬉しくてもっとって望んだ、初めてなんだから少し抑えようとかいわれて──思わず枕に顔を伏せる、思い出しただけで体が火照ってくる。
その背を真さんの体が覆う、湿り気のある肌が触れ合って、それだけで声が漏れそうになった。
「……続き、しようか」
耳孔に注がれる声、夕べのことを思い出してしまう。
愛しい人の優しい声、何度も名前を呼んでくれた、嬉しくて、それだけで果ててしまう感覚で──。
「──無理」
心も体も、限界です。