私をみつけて離さないで
真さんは笑顔で応える。お仕事、大変そうだな、具体的にはどんなことをしてるかも知らないけど──でも私の事を考えて浮ついていたなら、ちょっと嬉しい。

「香織のご両親にいつでもすぐに会えるって距離でもないのに黙って交際しているのがちょっと引っかかってたから、これで心置きなく香織に逢える」

それでも度々横浜や東京には来ていたはずだ、でも挨拶は私も一緒の時に、と思っていたのだろう。わざわざ改めて私を誘わなかったのは、私が家族とうまくいっていない風なことを言っていたからかしら。

「じゃあさ」

私はそっと真さんの胸を撫でながら言った、華奢だけれど、筋肉に覆われたその体を。

「私も、真さんのおじいさま達にご挨拶を……」

私だって、ちゃんとしたいよ、それこそいつでも会えるほど近くに住んでいるのに、無視しているみたいで心苦しいのに。

「それはまた今度」

真さんは先回りして言うと、私の髪にキスをする。

「ええ!? もう、なんで!?」

思わず大きな声になった、別に変な意味じゃないよ、ただ自己紹介をしたいだけだ!

「もうちょっとだけ待って」

真さんに抱き寄せられた、それだけで嬉しくなってしまう。

「大丈夫だよ、おじいちゃん達もすごく気にしてる。できれば会って欲しい」

なんで合わせたくないの? 本当は嫌いなの? そんな不安が過ぎる。

「そうじゃない」

真さんは笑顔で否定してくれる。

「ごめんね、ちょっとだけ──もう少しだけ待って」

そんな風に言われたらこれ以上は言えない。つくづく一番初めにおじいさまに会えた時に、きちんと自己紹介しておけばよかった!





その晩、珍しく母から電話が来た。
真さんの名刺から調べたのだろう、もしもしの挨拶もなく、まくしたてる。

「すごい人じゃない! まさに玉の輿ね! 絶対に逃しちゃ駄目よ!」

そうなんだよ、すごい人なんだよ。本人はそんな気配、全然させてないけど。

母にしてみれば、いい大学、いい会社の次は、いい相手と結婚、があるのかもしれない。

母の言いなりにはなりたくない、そうは思うけれど、真さんは私を見つけてくれて、必要だといってくれる人だ、それだけは自信になる。

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