私をみつけて離さないで
「相原さんの作るご飯は本当に美味しいから楽しみにしておくといいよ。同じ材料を使っても、なんでこんなに違うんだろうって思うから。でもフルコースまで作れるとは思わなかった、シェフに手伝ってもらってかな……ああなかなか器用な人でね、なんでもすぐに習得しちゃう人だけど」
調理師免許はお持ちだという。でもお客に提供することはないというから、どれだけレアなことなのか判る、場所は違えど家族感覚なのかしら。
「香織」
真さんは向かい合わせになると、そっと頬に手を当てて私をみつめる。ああ、駄目だよ、緑の瞳に見つめられると、本当に心を見透かされそうで意味もなく胸を腕で覆いたくなる。
「僕のそばにいることを選んでくれたら、絶対に君の心が壊れないように守り抜く。どうしてもというなら、家を捨てる覚悟はある」
家を……! それって物理的な『家』じゃないよね!?
私の動揺を悟ったのか、真さんはにこりと微笑んだ。
「会社は頭がすげ変わっても問題ないよ、次の経営者が立派な人になればいいなと思う。家のほうは弟たちもいるし、最悪、後継はいなくてもいいんだ」
「そんな……」
そんなことあるわけない、みんなが岩崎様と呼ぶような家系が絶えていいわけ。
「元々祖父の代で怪しかったんだ、祖父自身も祖父の弟も跡は継がないと家を出て行った。そして父も継がない意思は示していた中、跡を継いだ祖父は、家も家業も畳むつもりで帰ってきたんだ」
それは真実だった、結婚後におじいさまに笑顔で言われた、家に嫁いだなどと思わないでいい、嫁いだ先は真さんなのだと。
「だから、僕だけを見ていて。僕のことだけを考えていて」
綺麗な緑の瞳に見つめられて、私は頷いた。真さんだけを思うなら、私にもできそう。
「真さ……」
プロポーズを受け入れる返事をしようとすると、その唇を真さんの人差し指の腹で押さえた。
「まだ秘密がある」
緑の瞳がらんと光ったのが判る、秘密、って。
「僕の両親が宇宙人だと言うのは比喩じゃない、でも全てを話すのは君が僕を伴侶として選んだ時にしたい、この秘密を知る人は多くない方が有難いから──祖父母も知らない秘密だ」
私の唇を押さえたままの指が僅かに震えているのが判る、そんな凄い秘密なの?
「僕は人より少し体が丈夫に出来てる、年齢を重ねるのも人より遅い。いずれ人前に出ることはできなくなる可能性がある」
確かにおじいさまは80代も半ばだけど、若々しく見えるな……ひいおじいさまもバリバリ現役のまま97歳でお亡くなりになったっていうから、長寿な家系なのかも。
「一番は、僕には人を簡単に殺めることができる力がある」
「殺める……」
拳銃でも扱えるということ? でもそれでは宇宙人とは繋がらない、SFに出てくるようなすごい兵器があるとか……真さんはにこりと微笑む。
「いずれ、ちゃんと見せてあげる」
見せられるものなのか──真剣な真さんの目に、なになにと問い詰めることはためらわれて、私は頷くしかない。
「この力は顕性遺伝だ、現に弟達も持つ力で、まちがいなく僕の子にも現れるだろう、だから内緒にはしない。血が混じることでいずれはなくなる力かもしれないけど、既に失われた民族の力だ、それを正しく使えるように、ずっと導かなくてはいけないことを知っていてほしい」
言っていることの半分も理解できず、戸惑ってしまう。真さんは私の唇から指を離した。
「答えはまだ先でいい、これらを踏まえた上で今後も付き合いたい。せっかく入学したんだ、学生生活は独身で楽しもう。僕もまだ恋人気分を味わいたい。卒業の時、改めて答えを聞くよ。その時今はまだ話せないことも伝える」
これ以上の秘密? なんだろう? そう思うと真さんは再度微笑んだ、少し寂しげに見えたのは気のせいかしら。
真さんの不安は取り除きたい、私は思い切り口の端を吊り上げて微笑み返した──だって、なにがあろうと私の答えは変わらない。
真さんのそばは心地いい。心も体も、全部が満たされる感覚はきっと他の人では味わえないと思う。以前あなたは私を思う気持ちは私と釣り合わないくらい好きだと言ってくれたけど、それは私だって言いたい。
私はこの先いつまでも、未来永劫、あなたのそばにいたいと思っている。
そんな気持ちを感じ取ってくれたのか、真さんは身をかがめて軽いキスをしてくれる、わ、神様の前でのキスだ。
「ありがとう。一目惚れって本当にあるんだね」
本当だ、私も一番最初に会った時、あなたから目離せなかったのは、きっとあなたを好きになってしまったからだね。
「行こう」
真さんが私の手を取り誘う。
「相原さんが待ってる」
この先もお世話になる父親代わりとも言える人に一番最初に報告できたのはよかった、もっとも結婚しますではなかったのは残念、その方向でお付き合いを、という報告だ。
それでも相原さんは微笑んだ、そりゃあよかったと軽く言ったお顔は本当に父親だと思えた。
なにより。
相原さん自身がサーブしてくれた食事は、本当に美味しかった。本当にシェフでもしているんじゃないだろうかっていうくらい。お店ではその腕前を披露することはないというから、本当にもったいない。
調理師免許はお持ちだという。でもお客に提供することはないというから、どれだけレアなことなのか判る、場所は違えど家族感覚なのかしら。
「香織」
真さんは向かい合わせになると、そっと頬に手を当てて私をみつめる。ああ、駄目だよ、緑の瞳に見つめられると、本当に心を見透かされそうで意味もなく胸を腕で覆いたくなる。
「僕のそばにいることを選んでくれたら、絶対に君の心が壊れないように守り抜く。どうしてもというなら、家を捨てる覚悟はある」
家を……! それって物理的な『家』じゃないよね!?
私の動揺を悟ったのか、真さんはにこりと微笑んだ。
「会社は頭がすげ変わっても問題ないよ、次の経営者が立派な人になればいいなと思う。家のほうは弟たちもいるし、最悪、後継はいなくてもいいんだ」
「そんな……」
そんなことあるわけない、みんなが岩崎様と呼ぶような家系が絶えていいわけ。
「元々祖父の代で怪しかったんだ、祖父自身も祖父の弟も跡は継がないと家を出て行った。そして父も継がない意思は示していた中、跡を継いだ祖父は、家も家業も畳むつもりで帰ってきたんだ」
それは真実だった、結婚後におじいさまに笑顔で言われた、家に嫁いだなどと思わないでいい、嫁いだ先は真さんなのだと。
「だから、僕だけを見ていて。僕のことだけを考えていて」
綺麗な緑の瞳に見つめられて、私は頷いた。真さんだけを思うなら、私にもできそう。
「真さ……」
プロポーズを受け入れる返事をしようとすると、その唇を真さんの人差し指の腹で押さえた。
「まだ秘密がある」
緑の瞳がらんと光ったのが判る、秘密、って。
「僕の両親が宇宙人だと言うのは比喩じゃない、でも全てを話すのは君が僕を伴侶として選んだ時にしたい、この秘密を知る人は多くない方が有難いから──祖父母も知らない秘密だ」
私の唇を押さえたままの指が僅かに震えているのが判る、そんな凄い秘密なの?
「僕は人より少し体が丈夫に出来てる、年齢を重ねるのも人より遅い。いずれ人前に出ることはできなくなる可能性がある」
確かにおじいさまは80代も半ばだけど、若々しく見えるな……ひいおじいさまもバリバリ現役のまま97歳でお亡くなりになったっていうから、長寿な家系なのかも。
「一番は、僕には人を簡単に殺めることができる力がある」
「殺める……」
拳銃でも扱えるということ? でもそれでは宇宙人とは繋がらない、SFに出てくるようなすごい兵器があるとか……真さんはにこりと微笑む。
「いずれ、ちゃんと見せてあげる」
見せられるものなのか──真剣な真さんの目に、なになにと問い詰めることはためらわれて、私は頷くしかない。
「この力は顕性遺伝だ、現に弟達も持つ力で、まちがいなく僕の子にも現れるだろう、だから内緒にはしない。血が混じることでいずれはなくなる力かもしれないけど、既に失われた民族の力だ、それを正しく使えるように、ずっと導かなくてはいけないことを知っていてほしい」
言っていることの半分も理解できず、戸惑ってしまう。真さんは私の唇から指を離した。
「答えはまだ先でいい、これらを踏まえた上で今後も付き合いたい。せっかく入学したんだ、学生生活は独身で楽しもう。僕もまだ恋人気分を味わいたい。卒業の時、改めて答えを聞くよ。その時今はまだ話せないことも伝える」
これ以上の秘密? なんだろう? そう思うと真さんは再度微笑んだ、少し寂しげに見えたのは気のせいかしら。
真さんの不安は取り除きたい、私は思い切り口の端を吊り上げて微笑み返した──だって、なにがあろうと私の答えは変わらない。
真さんのそばは心地いい。心も体も、全部が満たされる感覚はきっと他の人では味わえないと思う。以前あなたは私を思う気持ちは私と釣り合わないくらい好きだと言ってくれたけど、それは私だって言いたい。
私はこの先いつまでも、未来永劫、あなたのそばにいたいと思っている。
そんな気持ちを感じ取ってくれたのか、真さんは身をかがめて軽いキスをしてくれる、わ、神様の前でのキスだ。
「ありがとう。一目惚れって本当にあるんだね」
本当だ、私も一番最初に会った時、あなたから目離せなかったのは、きっとあなたを好きになってしまったからだね。
「行こう」
真さんが私の手を取り誘う。
「相原さんが待ってる」
この先もお世話になる父親代わりとも言える人に一番最初に報告できたのはよかった、もっとも結婚しますではなかったのは残念、その方向でお付き合いを、という報告だ。
それでも相原さんは微笑んだ、そりゃあよかったと軽く言ったお顔は本当に父親だと思えた。
なにより。
相原さん自身がサーブしてくれた食事は、本当に美味しかった。本当にシェフでもしているんじゃないだろうかっていうくらい。お店ではその腕前を披露することはないというから、本当にもったいない。