私をみつけて離さないで



それから真さんは岩崎家で経営するお店に連れて行ってくれることが増えた。
私の両親が遊びに来たときには、京都駅近くに持つホテルの一番いい部屋を用意してくれたし。

年末年始は実家へ帰った。そこから戻ると学校が始まる前に、初めて山間の真さんの家に招かれた。

晴れ着で行ったほうがいい? 着物なんかないよ、っていったら笑われた。全然普段着でいいよって。確かに真さんはバイクで迎えに来たからしかたないけど──真冬のバイクは勘弁してほしい──おばあさまはきちんと着物だったよ! それもおばあさまの普段着らしいけど、いやいや、決して普段着には見えない着物だった……おじいさまはチノパンにセーターだったから、確かにいいんだろうけど。

それにしても平屋なのに部屋数が10もあるってどんな家よ!
雪原かって広さの庭があって、ぽっかり空いた大きな穴は池らしい、いや白鳥の足漕ぎボートで遊べそうだよ!
竹林の奥には茶室まである! これは曽祖母さまが茶道の先生をやっていらした関係らしい。
学校にあるようなサイズの格技室まであって! あ、これは曽祖父さまの趣味だったらしい。その息子たるおじいさまも腕に覚えはあるようで、真さんもしっかり仕込まれているようだ。
曾祖父さまの趣味の弓道場もあったようだけど、今はおばあさまの趣味でガーデニングを始めて、ハーブを育てたりもしているという。

そんなことに圧倒されながらも、住人であるおじいさまもおばあさまも奢った様子は全くなくて、素敵な人ばかりだ。

松の内だからか、私が行くと伝えていたからか、真さんの弟妹にも揃って会うことができた。

多国籍の意味が判った。まじまじと見なくても判る、瞳の色がカラフルだ。髪色も皆明るい。瞳も髪も、色は変えることができるとは言え──。

ずっと真さんの膝を陣取っている瑠璃子ちゃんは言うもまでもなく。

すぐ下の弟さんの翔真(しょうま)さんは、同じ大学の工学部の2年生のはずだけど、未だ会えずにいたのは当然だった、全然大学に行っていないらしい。
明日から頑張る、と言って遊びまわっているようだ、真面目に3年間でフル単だった真さんとは大違いだな、兄弟でここまで違うとは。
アッシュグレーの髪は染めていないと言うけれど、言動と合わさってどう見てもチャラく見えてしまう。瞳はよく見れば左右の色が違う──右目は淡いブルー、左目は明るい茶色だ、それが人懐っこく微笑むのは、罪作りだと思った。

もうひとりの弟さんは和真(かずま)さん。今は神戸の高校に通っているのであちらで寮暮らしだ。髪は金髪に近い茶髪だけれど当然染めてはいない、瞳はドキリとするほど薄い青色……とても綺麗だと思った。
ハキハキした真さんや、元気な翔真さんに押され気味なのか、とても物静かな子だった。その後小児科になるけれど、人の心を感じ取る力のある人ならではの仕事だと思う。

やはり『真』の字を使って名前をつけているんだとわかる。でもそれに瑠璃子ちゃんは文句をいっていた、自分もその仲間に入りたかったみたい、そうだよね、ひとりだけ違うんだもん。

顔の作りはもちろん、髪や瞳の色といい、見目麗しい兄妹だなあ。あの写真のご両親から生まれるとこうなるのか、遺伝子、恐るべし。


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