私をみつけて離さないで
11.迫る危機!
今日は真さんと、大学のカフェテリアで待ち合わせだ。
真さんはとっくに卒業は決まり大学に来る必要もなくなったけど、時々こうして構内で逢ったりしていた、今日もお昼一緒に食べようと誘ってくれていたのだ。
広い店内を見てすぐにその姿を探す、ううん、探さなくてもわかる、目立つ容姿だというだけじゃない、なんていうか、やはりオーラみたいなものがあるんだ。
見つけて顔が緩んでしまう、だって文庫本を読んでいる横顔すら綺麗で見とれてしまう。恋人なんかじゃなかったら、近くの席に座り込んでいつまでもその顔を見ていたくなるだろう。
しかも綺麗なだけじゃない、優しくて素敵な人、ああ、こんな人が私の恋人だなんて。
私が近づく気配に真さんはすぐに顔を上げて、笑顔で迎えてくれる。
「ごめんー、待ったよね」
いって肩にかけていたナップザックを下ろす。
「ううん、いいよ。どうかした?」
待たせる連絡もできなかった、もっとも時間を決めていたわけじゃないけど。
「もう、どうしよう、スマホが無くなったの」
「ええ?」
1コマ目が終わったときにはいじった、でも2コマ目が終わったときにはなかった。焦って事務所に届け出て、今も寄って見つかったか聞いたけれど、届けられてはいなかった。
「それは困ったね……数日待っても出てこなかったら、新しく契約を──って、ごめん、香織、鞄、見せてもらっていい?」
「え?」
椅子の背にかけようとしたのを止められた。
「鞄には入ってないよ?」
全部出して確認もしたの。
「うん、いいから」
真剣な目つきに異議は唱えられなかった、ん、と手渡すと、真さんは中をガサゴソと漁り始める、そう細々と多くのものが入ってるわけじゃないんだけど……。
と、真さんの動きがふと止まった、なんだろうと思うと、ゆっくりとした動きで何かをつまみ出す──まるで危険生物でもとらえたように。
親指と人差し指で摘まみ上げたそれは、2センチに満たない、ほぼ立方体の黒い物体だった、私の荷物のはずなのに、見覚えがない。
「え、なに──」
いうと真さんはすぐに自身の口の前に指を立ててる。そして片手でスマホを起動して何かを打ち込んだ。
メモ機能に書かれた文字は、『盗聴器』。
え、何でそんなものが……! 私は息すら殺すように口に手を当てて何度も頷いて返事にする。
「やっぱり、スマホないね。おかしいねえ」
それをしげしげと見つめていう、少ししてはたとなにかに気づいたようだ。真さんが自分のスマホをテーブルに置いたまま操作する、電話を起動して私の名前を検索し発信したのだ。ああ、スマホが見つからない時にやるヤツだ、えーでも私、授業中だったからミュートにしてたもん、意味ないかも、大体どこにあるかもわからないのに──その時、離れた場所から着信音が流れた。え、やだ! これ、私が真さんの電話番号に設定してる着信音と同じじゃん……! 銭形平次だよ! へえ、こんなの着信音にしている人が他にいたなんて──と思っていると、真さんが立ち上がった。
「え、真さん?」
真さんは笑顔で再度指を唇に当て、歩いていく。銭形平次はすぐに止まった、そして真さんは5つ離れたテーブルに座る4人の女性グループに声をかける。
「香織のスマホを拾ってくれてありがとう」
え……! 私は立ち上がりその姿を確認した。皆うっとりと真さんを見上げてる、でもこちらに背を向けて座っている人の顔は見えなかった、その人に真さんは手を差し出す。
「なにかお礼を──そう? ごめんね、助かったよ」
どうやらお礼など要らないと断ったようだ、その時横顔が見えた、見覚えがあるのは同じ学部の上級生──それでもお礼だというように真さんがその女性の肩を撫でて、こちらに戻ってくる。
「はい」
差し出されたスマートフォンは、確かに見覚えのあるカバーだ、洋書のようなデザインのもの。ロック画面も真さんが自撮りで撮った私とのツーショットで、パスコードを入れれば確かに起動した、もちろん、間違いなく私のだ!
「え、なんでわかったの!?」
近くにあることがだ。何の気なしに側面のミュートボタンを確認した、今は消音の設定になっているのは女性がそうしたのだろう。
「盗聴器から感じる気配がすぐ近くにあった」
真さんは椅子に座って、小さな声で話し始める。
「気配?」
「強い気持ちは、物から伝わってくる時もある」
「え、それって、サイコメトラーじゃんっ」
そんなことまでできるの!? 真さんって、本当に一体……!
「そこまで完璧なものじゃないけどね。とりあえず盗聴器を仕込んだことを後悔させてやろうと思ったけど、きっと盗聴器を君の鞄に入れた時にスマホを見つけて興味本位で持って行ったんだね、一緒にある気配を感じていじわるで鳴らしてみたけど──なんで僕からの電話、なんであんな古い時代劇のテーマソングにしてるの?」
真さんが優しく笑う、もう、やだ!
「わ、わかりやすくしようと思って……時代劇、好きだし……」
もっともいつもは真さんは通信アプリの無料通話で電話してくるから、私が設定した着信音なんて知らないはずだ、なんでわざわざ電話番号から電話したんだろう、恥ずかしい!
「そっか。まあいたずらはされていないだろうけど、気持ち悪いね、やっぱり買い替えようか」
「え、別にいいけど……って、あれ、盗聴器は?」
小さな声で聞くと、真さんはにっこりと微笑んだ。
「持ち主に返したよ。まったく君の鞄に仕込んでなにを聞きたかったんだろうね?」
頬杖までついてにこにこしている……ええ、たぶん、真さんのあれやこれやでは……と思ったけど、いえるはずもない。返したっていうけど、私が見ているときには、スマホを受け取っただけのような……。
「コートのフードにぽとん、ってね」
ああ、なるほど! それで肩を撫でる仕草を! もちろんそれだけでも女性にはお礼になるだろうけど!
「え、でもさ、なんで盗聴器があるなんてわかったの?」
鞄見せて、っていった時にはわかってたってことだよね?
「うーん? 異音かな、音というより振動? いつも香織からは感じないそんなものがあって」
なんてこともなげいうけど。本当に、真さんはスーパーマンですか?
真さんはとっくに卒業は決まり大学に来る必要もなくなったけど、時々こうして構内で逢ったりしていた、今日もお昼一緒に食べようと誘ってくれていたのだ。
広い店内を見てすぐにその姿を探す、ううん、探さなくてもわかる、目立つ容姿だというだけじゃない、なんていうか、やはりオーラみたいなものがあるんだ。
見つけて顔が緩んでしまう、だって文庫本を読んでいる横顔すら綺麗で見とれてしまう。恋人なんかじゃなかったら、近くの席に座り込んでいつまでもその顔を見ていたくなるだろう。
しかも綺麗なだけじゃない、優しくて素敵な人、ああ、こんな人が私の恋人だなんて。
私が近づく気配に真さんはすぐに顔を上げて、笑顔で迎えてくれる。
「ごめんー、待ったよね」
いって肩にかけていたナップザックを下ろす。
「ううん、いいよ。どうかした?」
待たせる連絡もできなかった、もっとも時間を決めていたわけじゃないけど。
「もう、どうしよう、スマホが無くなったの」
「ええ?」
1コマ目が終わったときにはいじった、でも2コマ目が終わったときにはなかった。焦って事務所に届け出て、今も寄って見つかったか聞いたけれど、届けられてはいなかった。
「それは困ったね……数日待っても出てこなかったら、新しく契約を──って、ごめん、香織、鞄、見せてもらっていい?」
「え?」
椅子の背にかけようとしたのを止められた。
「鞄には入ってないよ?」
全部出して確認もしたの。
「うん、いいから」
真剣な目つきに異議は唱えられなかった、ん、と手渡すと、真さんは中をガサゴソと漁り始める、そう細々と多くのものが入ってるわけじゃないんだけど……。
と、真さんの動きがふと止まった、なんだろうと思うと、ゆっくりとした動きで何かをつまみ出す──まるで危険生物でもとらえたように。
親指と人差し指で摘まみ上げたそれは、2センチに満たない、ほぼ立方体の黒い物体だった、私の荷物のはずなのに、見覚えがない。
「え、なに──」
いうと真さんはすぐに自身の口の前に指を立ててる。そして片手でスマホを起動して何かを打ち込んだ。
メモ機能に書かれた文字は、『盗聴器』。
え、何でそんなものが……! 私は息すら殺すように口に手を当てて何度も頷いて返事にする。
「やっぱり、スマホないね。おかしいねえ」
それをしげしげと見つめていう、少ししてはたとなにかに気づいたようだ。真さんが自分のスマホをテーブルに置いたまま操作する、電話を起動して私の名前を検索し発信したのだ。ああ、スマホが見つからない時にやるヤツだ、えーでも私、授業中だったからミュートにしてたもん、意味ないかも、大体どこにあるかもわからないのに──その時、離れた場所から着信音が流れた。え、やだ! これ、私が真さんの電話番号に設定してる着信音と同じじゃん……! 銭形平次だよ! へえ、こんなの着信音にしている人が他にいたなんて──と思っていると、真さんが立ち上がった。
「え、真さん?」
真さんは笑顔で再度指を唇に当て、歩いていく。銭形平次はすぐに止まった、そして真さんは5つ離れたテーブルに座る4人の女性グループに声をかける。
「香織のスマホを拾ってくれてありがとう」
え……! 私は立ち上がりその姿を確認した。皆うっとりと真さんを見上げてる、でもこちらに背を向けて座っている人の顔は見えなかった、その人に真さんは手を差し出す。
「なにかお礼を──そう? ごめんね、助かったよ」
どうやらお礼など要らないと断ったようだ、その時横顔が見えた、見覚えがあるのは同じ学部の上級生──それでもお礼だというように真さんがその女性の肩を撫でて、こちらに戻ってくる。
「はい」
差し出されたスマートフォンは、確かに見覚えのあるカバーだ、洋書のようなデザインのもの。ロック画面も真さんが自撮りで撮った私とのツーショットで、パスコードを入れれば確かに起動した、もちろん、間違いなく私のだ!
「え、なんでわかったの!?」
近くにあることがだ。何の気なしに側面のミュートボタンを確認した、今は消音の設定になっているのは女性がそうしたのだろう。
「盗聴器から感じる気配がすぐ近くにあった」
真さんは椅子に座って、小さな声で話し始める。
「気配?」
「強い気持ちは、物から伝わってくる時もある」
「え、それって、サイコメトラーじゃんっ」
そんなことまでできるの!? 真さんって、本当に一体……!
「そこまで完璧なものじゃないけどね。とりあえず盗聴器を仕込んだことを後悔させてやろうと思ったけど、きっと盗聴器を君の鞄に入れた時にスマホを見つけて興味本位で持って行ったんだね、一緒にある気配を感じていじわるで鳴らしてみたけど──なんで僕からの電話、なんであんな古い時代劇のテーマソングにしてるの?」
真さんが優しく笑う、もう、やだ!
「わ、わかりやすくしようと思って……時代劇、好きだし……」
もっともいつもは真さんは通信アプリの無料通話で電話してくるから、私が設定した着信音なんて知らないはずだ、なんでわざわざ電話番号から電話したんだろう、恥ずかしい!
「そっか。まあいたずらはされていないだろうけど、気持ち悪いね、やっぱり買い替えようか」
「え、別にいいけど……って、あれ、盗聴器は?」
小さな声で聞くと、真さんはにっこりと微笑んだ。
「持ち主に返したよ。まったく君の鞄に仕込んでなにを聞きたかったんだろうね?」
頬杖までついてにこにこしている……ええ、たぶん、真さんのあれやこれやでは……と思ったけど、いえるはずもない。返したっていうけど、私が見ているときには、スマホを受け取っただけのような……。
「コートのフードにぽとん、ってね」
ああ、なるほど! それで肩を撫でる仕草を! もちろんそれだけでも女性にはお礼になるだろうけど!
「え、でもさ、なんで盗聴器があるなんてわかったの?」
鞄見せて、っていった時にはわかってたってことだよね?
「うーん? 異音かな、音というより振動? いつも香織からは感じないそんなものがあって」
なんてこともなげいうけど。本当に、真さんはスーパーマンですか?