私をみつけて離さないで
☆
それから数日後。講義が終わって、下鴨神社近くのマンションに帰宅する。
そのエントランス前にワンボックスカーが止まっているのは気が付いていた。私が近づくと、その後部座席のスライドドアが開いてスーツ姿の男性が降りて来る。
「月岡香織さん」
フルネームで呼ばれ、私は素直に返事をしていた。
「はい」
「真さんが事故で病院へ運ばれました」
「ええ!?」
仕事中ならいいけど、バイクで走行中だったなら大けがをしてるんじゃ……!
意外と真冬の京都市街は、雪はあまり降らないようだ。雪の京都ってイメージがあるけど、八王子の方が降る回数も降雪量も感覚的には多い気がする。でもさすがに真さんが住む山奥は積雪はある、それでもやはりバイクのほうが機動性がよくて好みのようだ。積雪が少ない日は使っているようだから、雪で転倒とか! ありうる!
「あなたに会いたいというので迎えに来ました、どうぞ」
そういって乗るよう促され、私はすぐさま乗り込んだ。
でも中を見てふと「ん?」とは思った、運転席と、その後ろの後部座席にも男性がいて、そちらはいたってラフな格好をしていて、とても若い──会社の人ではないのかな。
そう思いながらも後部座席の真ん中に座った、私を案内してくれたスーツの男性も私の隣に座り、ドアを閉める。車はすぐさま走り出した。
初めは下鴨神社へ向かい、でもすぐに何度か右左折を繰り返して、東方面へ向かい始める。高野川を渡った、何処へ行くんだろう……? 住み始めてまもなく1年程度の私は、まだちゃんとした土地勘らしきものはない。基本的には大学と家との往復しかしていない、市内観光はずいぶんしたけど、真さんと一緒で完全にお任せなのがいけないんだな──それでも思う、こっちに病院なんかあったかな……。
「──なあ、もうええやろぉ?」
スーツ姿の男が、固めていた髪をわしゃわしゃと崩し、ネクタイを外しながらイライラした様子でいう。
「まあ、ここじゃまだ家も多いし人通りもあるさかい、騒いだら気づかれる。もうちょい人気があらへんとこまでは我慢しろ」
え、なにをいって……。
「もう逃げられへんし。な?」
いって右に座る男の腕が、私の肩を抱いた。
「え、あの……」
逃げられない、人気のないとこまで──そんな言葉から想像できることはひとつだ。
「お、降ります! ひとりで行きますから!」
「どこ行くのぉ? 用があるんはわしらなのにぃ」
男は右手で私の頬を撫で、左に座る男は私の太腿を揉んだ。
「い……っ!」
「ちょい話がしたいだけやさかい、つきおうてや」
「は、話……!?」
太腿に触られるのは嫌だと持っていたナップザックで追い払ったけれど、その手は今度は胸に延びてきた。慌てて鞄は胸に抱きかかえる。
それから数日後。講義が終わって、下鴨神社近くのマンションに帰宅する。
そのエントランス前にワンボックスカーが止まっているのは気が付いていた。私が近づくと、その後部座席のスライドドアが開いてスーツ姿の男性が降りて来る。
「月岡香織さん」
フルネームで呼ばれ、私は素直に返事をしていた。
「はい」
「真さんが事故で病院へ運ばれました」
「ええ!?」
仕事中ならいいけど、バイクで走行中だったなら大けがをしてるんじゃ……!
意外と真冬の京都市街は、雪はあまり降らないようだ。雪の京都ってイメージがあるけど、八王子の方が降る回数も降雪量も感覚的には多い気がする。でもさすがに真さんが住む山奥は積雪はある、それでもやはりバイクのほうが機動性がよくて好みのようだ。積雪が少ない日は使っているようだから、雪で転倒とか! ありうる!
「あなたに会いたいというので迎えに来ました、どうぞ」
そういって乗るよう促され、私はすぐさま乗り込んだ。
でも中を見てふと「ん?」とは思った、運転席と、その後ろの後部座席にも男性がいて、そちらはいたってラフな格好をしていて、とても若い──会社の人ではないのかな。
そう思いながらも後部座席の真ん中に座った、私を案内してくれたスーツの男性も私の隣に座り、ドアを閉める。車はすぐさま走り出した。
初めは下鴨神社へ向かい、でもすぐに何度か右左折を繰り返して、東方面へ向かい始める。高野川を渡った、何処へ行くんだろう……? 住み始めてまもなく1年程度の私は、まだちゃんとした土地勘らしきものはない。基本的には大学と家との往復しかしていない、市内観光はずいぶんしたけど、真さんと一緒で完全にお任せなのがいけないんだな──それでも思う、こっちに病院なんかあったかな……。
「──なあ、もうええやろぉ?」
スーツ姿の男が、固めていた髪をわしゃわしゃと崩し、ネクタイを外しながらイライラした様子でいう。
「まあ、ここじゃまだ家も多いし人通りもあるさかい、騒いだら気づかれる。もうちょい人気があらへんとこまでは我慢しろ」
え、なにをいって……。
「もう逃げられへんし。な?」
いって右に座る男の腕が、私の肩を抱いた。
「え、あの……」
逃げられない、人気のないとこまで──そんな言葉から想像できることはひとつだ。
「お、降ります! ひとりで行きますから!」
「どこ行くのぉ? 用があるんはわしらなのにぃ」
男は右手で私の頬を撫で、左に座る男は私の太腿を揉んだ。
「い……っ!」
「ちょい話がしたいだけやさかい、つきおうてや」
「は、話……!?」
太腿に触られるのは嫌だと持っていたナップザックで追い払ったけれど、その手は今度は胸に延びてきた。慌てて鞄は胸に抱きかかえる。