私をみつけて離さないで
「自ら申告すれば許してやる、今なら肘から先だな」

え、時間が経つほど失う量が増えてる!?

「──なんなら、今すぐ首と胴が離れても」

瞬間、短刀が向きを変える気配を感じた、いや、それじゃ真さんが殺人犯になっちゃう!

「大丈夫だよ!」

私は声を張り上げた、そこでようやく私の存在に気づいたように真さんは私を見て、いつものようにとろけるような笑顔を見せてくれた。

「ケガもないし! 心配しないで!」
「でも君に触れただろう」

いって再び男を睨みつける、その目は別人かと思えるほど冷たい光を放つ。

「僕以外の人間が触れたなんて許せないな」

ああ、そんな風に思って怒りを向けてくれるなんて、嬉しくなっちゃうよ……!
でも男が喉の奥で悲鳴を上げた、その顔がみるみる青くなっていくのはただ恐怖に震えているだけなのか、真さんが短刀を押し付けて呼吸ができないのか──。

「真さん!」

男を押さえつける真さんの手を慌てて掴む、冷たい手、ヘルメットをかぶっていたってことはバイクだったんだ、なのにグローブはしていなかったのだろうか。でも私が掴んだその手に既に短刀はなかった。あれ? 落とした?

「助けに来てくれてありがとう! 確かになんか目的はあったみたいだけど、全然未遂だから、許してあげよ!」

いいながら鞄を掴み車を降りた、男が邪魔だからどくよう足を叩けば、通りやすいように横へずらしてくれる。真さんの手も借りて車を降りた、すぐに真さんが抱きしめてくれる。

「無事でよかった」

ため息交じりの言葉に心が満たされる。

「──金目的か?」

その言葉はきつく低い、男たちに向けたものだ。
違うよと思うと、真さんは「ふうん」と私の耳元でつぶやいた。

「──彼女の依頼か」

え……あ、男たちの心を読み取ったんだ、え、知ってる人!?

思わず真さんを見上げた、真さんはとびきり優しく微笑む、私の不安を取り除こうというんだろう。

と、周りのざわめきがわかった。周囲は住宅街だ、さすがに大きな音に何事かと出てきたんだろう。道のど真ん中のできごとで、既に渋滞もできてる、それは反対車線もだ、運転手の男が伸びて道にはみ出している。
岩崎の、なんて声も聞こえる。真さんは一般の方にまで浸透しているのか。

「警察に連絡してもらっていいですか? 僕も事情聴取を受けるといっておいてください」

真さんが笑顔でいうと、何人もの人から「わかった」「任せとけ」と声が上がる。真さんは礼をいって、私の肩を抱き市街方面へ歩き出した。
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