私をみつけて離さないで
「あ、さっき持ってた刀は……!」

慌てて車を振り返る、あんなもの落ちていたら大事だ、でも真さんは微笑んだ。

「大丈夫、なにもないよ」

え、でも指紋とかなんとかが……でも真さんは足を止めない。

「これも僕の持つ力のひとつ──仕事抜け出してきちゃったんだ、一緒に行こう」
「え、あ、うん──って、なんでわかったの!?」

事件も場所も──そうだよ、めっちゃピンポイントで助けに来てくれたじゃん! 近くにいたの!?
と車の後部を見れば、そこに真さんのバイクがめり込んでいた。そうやって車を停めて、勢いで車の屋根に飛び乗ったのだろうか。

「そりゃわかるよ、香織のピンチだからね」

当たり前じゃん、と微笑む真さんが本当にかっこよかった。

「間に合ってよかった。でも法定速度違反はしまくったし、信号無視もいっぱいしたから、免停くらっちゃうかなあ」

慎重で真面目な真さんが、なりふり構わず助けに来てくれた。おまけに男三人に怯みもせずに──ああ、もう、本当にかっこよすぎ……!

「真さん、大好き!」

道の往来で抱きしめていた、真さんも僕もといって抱きしめ返してくれる。

「──って、ごめん。さすがに寒い、早くタクシーを拾おう」

二月の京都だ、寒さは半端ない。なのにコートもなくバイクで疾走って、本当だ、下手すれば死んでしまう! 私は真さんに鞄を預けて、慌ててコートに手をかける。

「ダメダメ、それは香織が着てなよ」

真さんが笑顔で私のコートを前を無理矢理合わせる。

「でも!」
「大丈夫、大丈夫」

いって私を背後から抱きしめた。

「これであったかい。あとは早くタクシー拾おう」

ああ、私を気遣ってだ、本当にどこまでも優しいんだから……!

「んもう、ひどいんだよ、あの人たち、真さんが物好きだっていうの」
「物好き? なんで?」
「私がかわいくもないのに、なんで付き合ってるのかって」

いうとぴたりと足を止めた。

「香織はかわいいに決まってるだろう!」

耳元で怒鳴ってくれる。

「ありがとー」

恋は盲目だね、ずっと盲目でいてね。

「あいつら……やっぱり許さない」

いうなり私の肩を抱いていた腕をほどき、くるりと踵を返した。

「え……ちょっと……!」

慌てて腕を引いて引き留める、その真さんの右手がカチリと硬い音がしたのがわかって視線を下げると、その手には刃渡り50センチほどの日本刀が……え、待って、待って、そんなものどこから……!

「真さん、ダメ、駄目、落ち着いて!」
「ただでさえ、香織にベタベタ触りやがったくせに、そんなことまで」

真さんは私の体重など感じないかのように歩き出す。待って、待って、そんなの振り回したら、本当に刑務所行きだから……!

「そんな風にいってもらえて嬉しい! 私も真さんにしか触って欲しくないもん!」

精いっぱい声を上げていうと、真さんはようやく足を止めてくれた。

「香織ー」

嬉しそうにいって抱きしめてくれる、え、刀は……っ、いや、もうない、え、どこに行った? 落ちた音もしなかったけど。

「あー(さむ)

いって市街に向かって歩き出す、そうだよね! 早くしないと本当に凍え死んでしまう!
東大路通りまで来て、ようやくタクシーを拾えた。そして向かったのは府庁近くのレンタル会議室だった。おじいさまもいて笑顔で出迎えてくれる、事情は特に話さなかったけど、商談相手の方も気にせず仕事の話を進めていた。

って、ここからバイクで来てくれたの? 決してマンションに近くないし、本当によくわかったな……。

結局内容を全く理解できない話を部屋の隅で聞いていた。それが終わって真さんたちが商談相手を送り出してから、おじいさまがどうかしたのかと聞いてくれる。

「香織が襲われた」

たったそれだけだ、それでもおじいさまも顎を撫で「そうか」と重々しくうなずく。

「香織をひとりになんてできない。今日はうちにおいで」
「え、でも」

うちって、あの大きなお屋敷だよね? いきなりのお泊りは、ちょっとハードルが……。

「また、なにかあるといけない」

いって真さんは心配そうに私の頬を撫でる、その手はもうあたたかった。
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