私をみつけて離さないで
「ありがとう、弁償はいいや、それも警察にいえばいいのかな。おじいちゃん、明日は仕事は休むね」

おじいさまも笑顔で頷いてくれる。

「バイクは修理工場に持って行ったの? え、たぶん一発廃車? そんなすごい事故だったの? お相手もへたくそな当たり屋ねえ。あ、じゃあ、おばあちゃんのバイク譲ってあげるわよ、ないと不便なんでしょ? ほら、香織ちゃんも乗せておでかけならハーレーのほうが楽ちんじゃない、そうよ、それがいいわ!」

おばあちゃまがまくしたてるのを、おじいさまが笑顔でいさめる。

「理恵、それは自分が新しいバイクを欲しいからじゃないのか」

いわれておばあさまは笑顔のまま固まった、図星だったんだな、可愛い人だな。

「シン、もうすぐ誕生日だし、新しいのを買ってあげよう。いいのを探しておいで」

真さんも笑顔でその提案を受け入れる。

「ありがとう、そうするね」
「真さま」

話が終わったタイミングで、腰も低く奈海さんが声をかける。

「香織さまのお部屋は、真さまとご一緒でよろしいでっしゃろか?」

え、わ、そ、そうなるか……!

「ううん、客間に案内してあげて」

えー即答……そっかあー、まあしかたないかあ……。

「一晩中香織の顔見てたら、僕、寝不足になっちゃうよ」

笑顔で私の顔を覗き込んでの言葉に、奈海さんはちょっと呆れた様子でへいへいと返事をし、おばあさまは笑っておじいさまの肩を叩き、おじいさまはうんうんと頷きながら微笑んでる。私はもう──恥ずかしくて顔も上げられない。

客間もしっかり広かった、旅館みたい、ベッドがある板の間とローテーブルがある畳の部屋が繋がっていた。それからお風呂をいたただく、これまた、本当に旅館のお風呂だよー、風呂場も脱衣所も広いし湯船はヒノキだった。でもこれは家の人のみならず、住み込みで働いてる方たちも使ってるんだって。使用人といえども、家族同様なんだよね。

そこから出ると、すぐに食事に呼ばれる。ダイニング専用の部屋は何処の迎賓館ですかくらい豪華だったけど、テーブルにあるものは庶民的といえるものだったのは安心した。
わかめと豆腐の味噌汁に、メインディッシュは鮭の西京焼き、それと漬物が数種類に煮ものだもの。もちろん器はいかにも高そうだったけど。

その食事を摂りながら、真さんがマンションの話をする。もちろんおじいさまもおばあさまも大賛成で、おばあさまに至っては「だからいったじゃない!」くらいだ。おばあさまも経営に携わっているんだろう、あそこが空いてる、ここが空いてる、あそこがいいんじゃないかと、どんどん勧めてくれた。

「一度部屋を見に行こう、いくつか見て香織が決めたらいいよ」

別に真さんが決めてくれてもいいのに、とは思う。絶対変な部屋を選んだりしないはずだ。
それでも私は真さんの提案を受け入れる、だってちょっと新婚さんみたいじゃない? 一緒に部屋を見て回るなんて。
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