私をみつけて離さないで



新しい家にも真さんの荷物が増えていく。
お茶碗やお箸も買った。下着やスーツはもちろん、仕事で使うパソコンまで。羽織袴もあるのは、制服みたいなものなのかしら。おじいさまも市街でお会いするときはいつも和服だもんな。挙句には駐車場を借りてバイクと車まで置くようになった。
以前は週末にしか来なかったのに、部屋が広くなったからだろうか、真さんは週のほとんどをこのマンションに帰ってくるようになった。
もちろん嬉しい。本当に同棲していると思うのだけれど、真さんは山間の家が本当の家だとは思っているよう。確かに住所も変えてないからそうなんだろうけど、家の人に「今日は帰ってくるのか」って連絡が度々あることは知っている。それは家の人たちも真さんがこちらに住んでいると思ってるからだ。

3月は変化の月、真さんは大学を卒業して本格的に家の仕事を始めている、よかった、大学に残らないで……。おじいさまは近いうちに引退を考えているようだ、会社には名を残す程度、本当なら完全に引退したいけど、やはり若い者をあざける人もいるからその保険だっていってた。これからはあの大きなお屋敷を、おばあさまと取り仕切っていくつもりのようである。

そして3月21日は真さんのお誕生日。

「プレゼント、なにがいい?」

パーティーはお屋敷に呼ばれた、先んじて日曜日に卒業のお祝いを兼ねてやりましょうって──当日はふたりで仲良く過ごしなさい、ってハートマーク付きでいわれちゃった……。

うん、だから、プレゼントを。サプライズでもいいけど、どうせバレるし。だからご希望の品を。

「そうだなあ」

真さんは見ていたテレビから視線を天井に上げて少し考えてから、にこりと微笑んだ。

「別になにもいらないよ、香織と過ごせればいいかな」
「そんな。無欲すぎだよ」

今だってそばにいる、これ以上いようがない。

「なんで。香織と過ごすのも大事な時間だよ」

ってもう、イケメンのかっこつけすぎのセリフは、普通に心臓に悪い。

「今年は平日だから、僕は仕事はお休みしようかな。香織も大学休んで、ずっと一日いようよ」

そんなの。普段の土日と大して変わらないじゃん。
でも私を欲してくれるのは、やはり嬉しい。

「うん。じゃあケーキくらい、頑張って作ってみようかなぁ。真さん、何ケーキが好き?」

経験的には、あまり凝ったものではなく、普通にイチゴが乗ったショートケーキが好みみたいだと思う。

「そうだな、香織をショートケーキみたくデコレーションしてもいいね」

いやいや、真さん、それは爽やかな笑みで言う内容じゃないでしょ。

「──変態じゃん」
「面白そう、やってみたい」

……って、実際にはデコレーションはされなかったけど。

抱き潰すって、こういうのをいうんだなくらい、付き合わされました。
真さん、こういうことをしたいから、あのお屋敷に私を連れて行きたくないのかな……1日中、飽きることなく、いつまでも、いつまでも──。
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