私をみつけて離さないで
12.あっという間の1年が過ぎ
4月、私が故郷を離れた大学に入って1年が経った。
あっという間だった、いろんなことがあった、こんなことがあるなんて信じられないくらい、満たされた毎日を送っている。
そして新入生を迎えたテニスサークルの歓迎会。
ああ、一年前のこの日に真さんと出会ったんだよな、なんて感慨にふけっていると。
「遅くなりやしたーっ」
明るい声で二次会のカラオケルームにやってきたその様子と声に、本当に一年前に戻った気分だった。だって、この声、真さん……!? と、はっとしてドアを見て、これまた息を吞む。
満面の笑みで敬礼までしていたのは、真さんの弟の翔真さんだ!
入ってきた美形に1年生がざわめく、やはり岩崎家の人だと知っている人もいるんだろう、耳打ちあってもいた。
「え……っ、翔真さん、テニス部だったの!?」
思わず叫んでしまった。
「そうだよん」
ええ!? 誰もそんなこと言ってなかった!
でもそうだよね、お父さんがテニス馬鹿といわれるほどのプロ級の腕前で、真さんもしっかり教えてもらったっていうんだから、2歳年下の翔真さんだって教えてもらってるだろう、そんな人が入るならテニスサークルかも!
真さんのプレーは結局サークルでは見ることはなかったけど、デートの時に時々一緒に楽しんだ。もっともド素人の私相手だからだろう、軽井沢のセレブのごとく優雅なラリーしかしてなくて、金子さんが言ってたみたいなすごいスマッシュとかは見てないんだけど。
「まあ、仕方ねえなあ、大学にすら来てねえもん、みんな辞めたって思ってたんじゃないの?」
悪びれもせずに……! 確かに大学そのものに来てないのにサークルだけ顔出すものおかしいわ!
「おばあちゃんにいよいよ退学するか決めろって脅されてさ。まあ辞める気はないなあって思って今年からちゃんと通うことにした」
当たり前だし!
「んなこと言ったって。勉強に価値を見出せないんだよね」
そんな偉そうなこといって! したくないだけでしょ!
「あ、バレた?」
といってぺろりと舌を出す、あ、翔真さんも、心が読めるのか! と思った瞬間、にこりと微笑んだ。
「シン兄が香織さんを選んだの、判るなあ。こういうのを平然と受け入れてくれるのって、貴重だよ」
あ、そっか。気味悪がられたりするのかな、っていうか、真さんも良識の範囲内で使ってはいるよね、「あ、ごめん」っていうけど。
でもそれも持って生まれたものだ、しっぽを振るなと言われてできるわんちゃんはいないだろう。
翔真さんは、再度にこりと笑う。
「まあともあれ、せっかく入った大学だから卒業くらいはしようとは思ってね。学年的にはお義姉さんと同じだね、よろしくね」
途端に2年生以上がざわ、となる、おねえさん呼びの真相だろう。もちろんみんな真さんと私の交際は知っているから、いつだ、式には呼べと皆に突かれた。